ローソン、「実質半額」コーヒーサブスクの勝算 1杯50円でも痛くないワケ
- 政治・経済
- 2023年4月7日
コンビニ業界の大手、ローソンが、コーヒーのサブスクサービスを地域限定で開始し、話題を集めている。サブスクサービスはこれまでにもさまざまな試みがあったが、一部で失敗例も見られる中、ローソンは一体どのような点に勝機を見いだしたのであろうか。
ローソンは4月4日から、愛知県内の「MACHI cafe」展開店舗で「MACHI cafe Prime(マチカフェプライム)」というサービスを開始した。月額料金1500円を支払うことで、1日1杯、通常価格110円の「マチカフェコーヒーS(アイス/ホット)」を店舗で受け取れる。毎日利用すればコーヒー代が「実質半額」となることから、全国展開を期待する声でSNSが賑わった。 コーヒーサブスクの先行例として思い出すのが、JR東日本が展開する駅ナカコンビニ「NewDays」だ。当初、月額1800円・回数無制限のプランを提供していたが、1日に何度も受け取れるのが仇となったのか、今では利用回数に制限が設けられている新プランに移行している。 今回、大手コンビニ3社の一角であるローソンがコーヒーサブスクに乗り出したことで、競合のセブン‐イレブンやファミリーマートの動向にも注目が集まる。
フードサブスクは失敗続き?
コーヒーのサブスクは、いわゆる「フードサブスク」に分類される業態だ。サブスクと聞いてイメージされることが多い「視聴し放題」「聴き放題」な映画や音楽といったデジタルコンテンツ向けのサービスとはやや事情が異なる。フードサブスクは原価率が高いことから、食べ飲み放題というわけにはいかず「1日1回」といった利用制限が設けられているのが一般的だ。
例えば、牛角が2020年に実施した「焼肉食べ放題PASS」というサブスクサービスを覚えている人も多いだろう。これは、当時3480円だった食べ放題の「牛角コース」が1日1回、月額1万1000円で食べ放題になるというもの。約3回で元が取れるという、美術館や水族館の年間パスなどを参考とした料金モデルだったと推測されるが、あまりの人気ぶりで苦しくなったのか、1カ月で終売となってしまった。
フードサブスクでは、牛角の他にも定額制の食事サービスが数多く試みられてきた。しかし、原価率の高さや、利用者がヘビーユーザーに偏る問題など、さまざまな課題が指摘されており、計画が早々に頓挫してしまう失敗例も少なくない。そのため、飲食各社は「牛丼のトッピング」や「うどんの天ぷら」といったように、おおもとの食事を頼むことで注文できるサブ的な位置付けの商品に限ってサブスクを提供する慎重な例が増加している。
ただし、デジタルコンテンツでなければサブスクが成り立たない、と考えるのは早計だ。具体的な商品や実店舗のサービスを売りにするサブスクでも「美容系」は成功するケースが多い。その理由としては、化粧品の原価率が低いこと、またサービスの利用頻度が低下することで、ユーザーの利用権が消滅し、本来提供するはずであった商品や役務がそのまま利益になるというケースが多い点にあるといえる。
このように考えると、ローソンのコーヒーサービスも、いかに原価率や利用頻度を抑えられるかが問題の所在となってきそうであるが、コンビニという業態を踏まえると、それ以外の観点でも勝機はあるように思われる。
コンビニとコーヒーサブスクは好相性?
まず、コーヒーは弁当などのコンビニ取扱商材と比較して品質維持が容易で、運送が平易であることから毎日安定した供給が可能だ。そして、コンビニコーヒーの原価率が一般的に50%程度であることを踏まえると、ローソンにとっては「サブスク購入者全員が土日祝日含めて毎日必ずコーヒーのみを購入する」という条件でもトントンに収まる。
そもそも、コーヒーはビジネス層を中心に一定の需要がある商品だ。このことから、サブスク需要があり、継続的な売り上げを生み出すことが期待できる。加えて、ビジネス層に需要がある商品は休日には平日ほどの利用が見込まれないことから、土日祝日に利用しない人が発生しやすい点もポイントだろう。
ただし、毎日利用されたとしてもローソンにとっては店舗への集客効果というトータルの売上向上効果が期待できる。コーヒーのサブスクを利用することで、消費者はセブン‐イレブンやファミリーマートといったコンビニならどこでもいいというマインドではなく、毎日ローソンを選び・訪れる可能性が高まる。これにより、菓子や弁当、日用品といった他商品の購入も促される可能性があり、店舗全体の売上向上効果が期待できる。
ローソンの客単価が23年2月時点で794円であり、22年2月期の粗利率30.9%を当てはめると、顧客1人当たりの粗利は約245円となる。仮に、コーヒーサブスクで来店した顧客が他の顧客と同じように買い物を行う場合、110円のコーヒーが実質半額となったとしても全体の粗利のうち、8割弱の粗利は保たれる。 つまり、サブスクの効果を商品単体ではなく、集客全体の目線で見ると、今回の施策によるコーヒーの「値引き」は集客コストとして正当化される可能性が高いといえる。これはコンビニ各社が発行する弁当の100円引きクーポンなどと比較しても割安な集客施策と整理することもできるだろう。
デジタルマーケティングにもメリット
そもそも、今回の取り組みは、「実験」という立ち位置だ。万が一、愛知県での実験のみで終わったとしても、検証結果はデジタルマーケティングへ活用できるため、決して無駄にはならない。顧客の利用データを収集し、例えば、「サブスクプランの提供で店舗の売り上げがどのように変わるのか」や、「客単価がどのように変化したのか」、そして「コーヒー単価が安くなったら、コーヒーとの掛け合わせでどんな商品が買われているのか」といった分析が可能になる。
こうしたデータを活用して、より効果的なマーケティング活動を展開できるし、取り組みが大きくニュースに取り上げられた時点でプロモーション的には既に成功しているともいえるのかもしれない。
これらの要素を踏まえると、ローソンがコーヒーのサブスクサービスに乗り出した背景には、店舗売上の最大化や、競合他社からの顧客引き抜き、そしてブランド力の向上といった効果があるという点が大きいといえるだろう。
コンビニ業界は近年、非常に競争が激しくなっている。日本全国にはセブン‐イレブン、ファミリーマート、ローソンといった大手3社をはじめとする多くのコンビニが展開されており、人口減少や労働力不足の影響から、収益性向上やブランドの統廃合が相次ぐ。
今回のローソンの施策が吉と出るか凶と出るかの行方は、実施後の客単価や粗利率の推移から確認していく必要があるだろう。もし、ローソンがサブスクの解約率を下げられる施策もセットで提供できれば、ローソンが成功した後に乗っかろうとするライバル企業への顧客流出を防ぎ、一人勝ちすることも不可能ではないかもしれない。
ITmedia ビジネスオンラインより転用
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