ワンクリックで解雇なんて…Google日本法人で初の労組が結成 巨大IT企業で続々起きる新たな波
- 政治・経済
- 2023年3月2日
巨大IT企業Google(グーグル)の日本法人で働く従業員らが、同法人では初めての労働組合を結成した。グーグルは昨年約8兆円の利益を上げ業績好調なはずだが今年1月、全世界で1万2000人を解雇すると発表。労組結成はこれに不安をおぼえ、抗議するためだ。グーグルに限らず、アマゾンやツイッターなど米国発の世界的IT企業で一方的な解雇が横行しているが、ボタン一つで従業員を消去するかのような手法には批判が集まっている。(木原育子、山田祐一郎)
ワンクリックで解雇なんて…Google日本法人で初の労組が結成 巨大IT企業で続々起きる新たな波© 東京新聞 提供
◆解雇への不安が組合加入に走らせる
「説明会をやればやるほど組合員が増えている。みなが解雇におびえている。この加速度が不安の裏返しと言える」。東京管理職ユニオンの神部紅(あかい)さん(41)は、グーグル日本法人の労組の現状をこう語る。
グーグル社は1月20日、全世界の従業員の6%に相当する1万2000人の解雇を発表した。スンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)の名で全従業員に電子メールが送られ、解雇の対象は「世界のあらゆる地域、全部門に及ぶ」と説明。2月に入ると、今度はグーグル日本法人代表の奥山真司氏から、「3月中に何らかのアクションが起きる」とのメッセージが送られた。
「解雇なのか、ただの事業編成なのか。解雇としたら、対象者は誰なのかなど、一切触れられていない。あまりに一方的なやり方だ」と神部さんが従業員の思いを代弁する。
東京管理職ユニオンはこれらのメールが送られた2月以降、グーグル日本法人で働く数十人を組織し、支部を結成。グーグル日本法人で労働組合が結成されるのは初で、組合員は50人を超える見込みという。
◆まさかこんな軽い感じで解雇なんて…
いち早く参加を表明したグーグル日本法人のエンジニアの男性(36)は吐露する。「裏切られたような思いだ。もし解雇されたらと考え始めると、気持ちもすさむし、どんどん暗くなる」
CEOからのメールは当初、気に留めていなかった。「新製品の発表や組織改編でもあるのかな」。だが翌日のニュースで、米国では、メールの翌日から社内のネットワークに入るアカウントが失効したり、さよならも言えずに解雇されている現状を知った。「あわててメールをしっかり読んだ。まさかこんな軽い感じで、重要な解雇の話が通達されるなんて…」と驚く。
大学院を出た後の2012年、社内の自由さや待遇、裁量の大きさに感銘を受け入社した。22年には600億ドル(約8兆円)の利益を上げ、1140億ドル(約15兆円)の流動資産を保有する世界をリードする企業で、メールや会議など基本は英語。社員は多国籍で、自由闊達(かったつ)な企業風土があった。「やりがいのある職場だった」
だが、解雇方針の発表後は、仕事が手についていない同僚も多い。男性は独身だが、扶養家族がいたり就労ビザで入国している外国籍の同僚の動揺は、より激しいという。
グーグル日本法人のエントランス=東京・渋谷で© 東京新聞 提供
グーグルはこれまで、社の行動規範に「Don’t be evil(邪悪になるな)」や、「Do the right thing(正しいことをしよう)」と掲げてきた。男性は、「誰が解雇の対象になるのかも分からず、情報がなさ過ぎる。グーグルのやり方は、かつて掲げた行動規範からはかけ離れている」と語る。
神部さんもグーグルだけの話ではないと見ている。「グーグルで違法な解雇を許せば、他の企業にも悪い意味での影響をもたらす。私たちが立ち上がるのはグーグル従業員のためと同時に、日本の全ての労働者の利益のためでもある。連帯していきたい」と訴える。
◆Amazonも、ツイッターも、Facebookも
巨大IT企業をめぐる労働者との紛争は他にもある。アマゾンでは2015年に日本法人の労組を結成。同法人では退職に至る前に、個人の業績改善を目的とする「コーチングプラン」などを課し、達成できなければ解雇する方法だったが、その基準が曖昧なため、労組は会社側と折衝を重ねてきた。
アマゾン日本支部の組合員は「日本企業と違って、会社側は解雇対象の基準や情報を全く明かさなかった。情報を出さないという点ではグーグルのやり方との共通点を感じる」と話す。
米電気自動車大手テスラのイーロン・マスクCEOに買収されたツイッターは、昨年11月に全従業員の半数に当たる約3700人に解雇を通知。日本法人の従業員も対象とみられる。
米国のIT企業の解雇は昨年以降、急増している。その多くを占めるのがグーグル、アマゾン、メタ(旧フェイスブック)、マイクロソフトなど巨大IT企業だ。グーグル以外では、メタが昨年11月、全従業員の約13%に当たる1万1000人以上を解雇すると発表。アマゾンは今年1月、経営改善のために検討している従業員の削減が1万8000人を超える規模となる見通しを明らかにした。マイクロソフトは1万人の解雇計画を発表している。
◆本家アメリカでも続々と労組が
アマゾンジャパンに待遇改善などを求める人たち=2022年11月、東京都目黒区で© 東京新聞 提供
「労働組合への拒否反応が強い米国で、設立の動きが続いているのは要注目だ」と言うのは、ITジャーナリストの星暁雄氏。「米国流の資本主義では、いつでも、どこでも解雇できる。それを前提に、景気が良い時期には積極的に雇用し、状況が変わればすぐ解雇していた」。だが、昨年来続く大量解雇はこれまでとは状況が違うと話す。「市場が好調だったIT企業では、解雇されても別の雇用があったが、いまは気楽に構えられる状況ではない」
日本での状況について、星氏は「外資系企業の従業員は、ある程度は『いつ解雇されるかわからない』という思いは持っているはず。だが今回はさすがに経営者、資本家に都合が良すぎないかという異議が出てきているのだろう」とみる。
日本では、解雇は判例や法律で制限されてきた。ただ、「新型コロナによる経済的打撃や技術革新のスピードの高まりもあり、日本型雇用を維持できなくなっている」と神戸大の大内伸哉教授(労働法)は国内の労働環境の変化を指摘する。「日本とは対極に簡単に解雇できる米国はいきすぎだが、今後、解雇が不可避となった際には、次に就職するための訓練などセーフティーネットの整備が重要だ」と強調する。
一方で「米国企業だからといって治外法権ではない。労働契約法に基づき、解雇には合理的な理由が必要だ」と指摘するのは龍谷大の脇田滋名誉教授(労働法)。今回の組合結成の動きについて「労働法を空文化させないために、行政の厳格な対応とともに、労組の力が重要。欧州では、組合が団体交渉を通じた解決で大いに力を発揮している」と労働者保護を訴える。
前出のグーグル日本法人のエンジニアの男性は言う。「経営側は従業員のことを考えてくれていると思っていた。ただ、労働者と経営者には緊張関係がないと、結局切られるのは労働者側。組合の必要性を痛感した」と語り、こう続けた。「今まではなれ合いだったが、経営側がある種豹変(ひょうへん)した。そうなると、こちらも組合という形で武装し、戦わないといけなくなる。黙ってやられっぱなしというわけにはいかない」
◆デスクメモ
米パソコン企業日本法人に「正社員採用」された男性。だが、残業代もなければ、社会保険もなし。不満を言うと「ウチは外資だから」とごまかされ、あげく「君は実は派遣社員だ」と言われたという。18年前に書いた特報面記事だが、外資IT企業の雇用姿勢は変わらないようだ。
東京新聞より転用
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