椎名林檎、グッズ炎上への“遅すぎる”対応で失った「ふたつの信用」
- エンタメ
- 2022年10月22日
◆あまりの“遅すぎる”対応に厳しい声
© 日刊SPA! 改訂前のアルバム特典グッズ(画像:ユニバーサルミュージック 販売ページより)
ヘルプマークと赤十字に酷似していると議論を呼んだ椎名林檎のグッズ騒動が一応の解決を見ました。10月18日にUNIVERSAL MUSICがデザインの変更とリミックスアルバム『百薬の長』(当初は11月30日発売予定)の発売延期を発表。しかし、問題が発覚した10月7日から10日あまりの“遅すぎる”対応に厳しい声があがっています。
その間、ヘルプマークを使っている高校生が見知らぬ男から“それ椎名林檎のグッズ?”と訊かれた出来事がネットニュースで話題になったり、NHKや民放各社もニュースで取り上げるなど、事態が大きくなってしまったのです。
見解を表明しなかったアーティストの態度も不信を招きました。
椎名林檎といえば総合プロデューサー的な才能の持ち主だと知られています。楽曲のみならず、映像、ステージングに至るまで、あらゆる表現に卓越した美意識が反映されている。
だからこそ椎名氏が東京五輪パラリンピックのプロジェクトチームに参加することに大きな期待が寄せられていたのですね。<国民全員が組織委員会>(『朝日新聞』2017年7月24日 インタビューより)との発言も説得力がありました。
その椎名氏があえてヘルプマークや赤十字マークをモチーフにするのだから、何らかの根拠があるに違いない。倫理的な問題はさておき、言い分には耳を傾けるべきだろう。そう思うから彼女の言葉を待ち続けたわけなのですね。
◆椎名林檎はグッズ制作に関わっていなかった?
ところが、その期待はあっさりと裏切られます。18日のUNIVERSAL MUSICのプレスリリースに思わぬ文言があったのです。
<今回の【UNIVERSAL MUSIC STORE限定盤】の付属グッズは、内容及びデザインを弊社で企画検討したものです。>
にわかには信じがたい一文でした。全方向からブランドイメージの向上に努めてきたマルチアーティストが、安価ではない特典グッズの制作に関わっていないなんてことがあり得るのだろうか?
レコード会社の発表が事実だとしたら、椎名氏自身もある意味では被害者ということになります。自身がチェックも許可もしていないところで評判を落とされたのですから、怒りを表明したとしても世間は納得するでしょう。
一方で、椎名林檎の面子を保つ落とし所があの文言だったのではないかと考えるファンもいました。とりあえずの解決策として、レコード会社が“大人の対応”で収拾に乗り出したのだろうと。
それゆえに彼らは炎上当初から冷静でした。“さすがにヘルプマークと赤十字のパロディはまずい”とか、“彼女の曲は好きだったけど、コロナ下のライブ開催など肝心なことで黙るのは格好良くない”といった声が大半だったのです。
アーティスト自身よりもファンの方が表向きのパフォーマンスと公的な常識の使い分けを柔軟にとらえていたのですね。
同様に椎名氏にもビジネスライクなスマートさを期待していたところ、いつまで経っても“肝心なこと”について何の考えも明かしてくれない。そんな幼稚さが露呈してしまったので、急速に冷めてしまったというところなのではないでしょうか。
◆失った“ふたつの信用”
© 日刊SPA! 椎名林檎『日出処 通常盤』/Universal Music
こうして考えてみると、椎名氏はふたつの信用を失ってしまったように思います。
ひとつは、クリエイターとしての信用です。具体的なデザインはおろか、仕上がりのチェックもせずに“椎名林檎”の名前で通していたのだとすれば、彼女の才能を信じたファンをがっかりさせる行為に他ならないからです。
先述したように、本当に何も知らないところで全て決定していたのであれば自身の口から説明したほうがいい。それはアーティストとしての沽券にかかわる問題である以上に、自らの誠実さを証明するためにも必要なことなのだと思います。
たとえば、2014年に4人組ロックバンド「クリープハイプ」が、“レコード会社が一方的に決めた”としてベスト盤の発売に異議を唱えたケースがありました。意思に反した決定であれば、経緯を説明しても何ら不自然ではないのですね。
しかし、ヘルプマーク、赤十字問題について分かっているのは、彼女が関わっていないということだけです。社会問題化するほどのセンシティブな問題を預かり知らぬところで進められたことへの異議申し立てはありません。
となると、今後“椎名林檎”の名を冠した制作物に込められた意図や意志をどのように問い、評価したらいいのでしょうか? 彼女が関与していない可能性を常に考慮したうえで、加減して付き合わなければいけないということなのでしょうか?
UNIVERSAL MUSICの発表に従えば彼女に非はないことになります。けれども、これまで築いてきた“マルチクリエイター”としての評価がどう変わっていくかは別の話なのだと思います。
◆「本人からの説明がない」ことへの違和感
もうひとつは、ひとりの成人としての信用です。問題となっている理由を理解し懸念していることぐらいは表明すべきでした。途中まででしたがオリパラに携わり積極的に発信してきた立場からも、ヘルプマークや赤十字への考えを明らかにする義務はあるように感じます。
そのうえで時代感覚とすり合わせて判断を誤った部分があるのなら、それを認めてデザインを変えるなりグッズを差し替えるなりすべきだった。
それでも差し替えられない、または差し替えたくない理由があったのだとしたら、モチーフとして利用した意図をていねいに説明すべきでした。仮にレコード会社が企画やデザインを請け負っていたのだとすれば、レコード会社に掛け合い、説明するよう促すこともできたかもしれません。
それはアーティストである以前に、一人の人間として自身と関わる人達への疑念を解いていくためにもしなければならないことでした。
そのような過程を経ていれば、デザイン変更という結論は同じだったとしても世間の印象は全く違ったはずです。
◆アーティスト不在の「結論」
© 日刊SPA! 改訂前のアルバム特典グッズ(画像:ユニバーサルミュージック 販売ページより)
いずれにせよ、アーティスト不在のまま結論を出してしまったことが消化不良を招いていることは確かです。結果として、彼女をよく知らない人までもが大きな違和感を抱く社会ニュースになってしまったのですから。
皮肉にも、いまだ椎名林檎が注目を集める存在であることが明らかになった今回の一件。
ですが、平成を代表するヒットメイカーとしてはあまりにもさびしい盛り上がり方だった感は否めません。
日刊SPA!より転用
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