高校球児の夏 神戸国際大付の三塁手が見せた気遣い 勝者も敗者もない戦い
- スポーツ
- 2022年8月5日
<酒井俊作記者の旬なハナシ!>
スマートフォンの振動音がせわしなく鳴ったのは兵庫大会決勝が始まった直後だった。電話越しの声はいつになく上ずっていた。私は夏の地方大会を束ねる立場だった。7月28日、奈良大会決勝をカバーしていた堀まどか記者は言う。
「大差の9回2死で野手がマウンドに集まってね、何事かと、エースの南沢君に聞いたら『試合後はマウンドに集まらずに整列しようって、戸井が言って』という話やったわ」
思わず、鼻がツンとなった。試合前に生駒の事情は聞いていた。初めて決勝進出していた公立校ナインが体調不良続出で大幅なメンバー入れ替え…。ライブ速報も21点差がついていた。戸井零士内野手(3年)ら天理ナインは優勝を喜ばずに整列したという。わが事よりも相手への「思いやり」が先立つ。兵庫大会では社(やしろ)と神戸国際大付が序盤から熱戦中なのに思わず、叫んでしまった。
「堀さん、今日のメイン記事確定ですね! 速報から、原稿を入れていってください」
大敗を喫した生駒の無念は益子浩一記者がつぶさに書いてきた。コロナ禍が長引き、社会がぎすぎすしている。戦火は消えず、大国のエゴがむき出しになっている。「俺が俺が」のムードが先立つなかで、さわやかな情景が浮かんだ。
兵庫大会が行われているスタンドに目を移す。神戸国際大付の岡木優之介外野手(3年)は病と闘いながらも、白球を肌身離さないのだという。「ノーシードでここまで勝ち上がっている姿を見るだけでも、感動します」。昨年6月、脳動静脈奇形で倒れ、手術で一命を取り留めた。地元広島で入院中の昨年冬、青木尚龍監督(57)の見舞いを受けた。当時は後遺症で会話もできなかった。優しくそっと手でトントンとたたかれた。「頑張れ」。身に染みる言葉になった。
岡木はこの夏、広島から全試合、応援に訪れた。山里宝内野手(3年)や楠本晴紀投手(3年)とはLINEでエールを交換してきた。「頑張ろうな、一緒に」。岡木も、野球への情熱は負けない。右手はまだ思うように動かないが、左手で白球を宙に放り投げる。スナップスローを繰り返し、勘を保ってきた。炎天下の熱戦は延長14回に入っていた。社の勝ち越し打を放った福谷宇楽内野手(3年)が三塁を回ると足がつって倒れ込んだ。すると、三塁手の山里が応急処置を手伝っていた。味方も敵もない。勝者も敗者もない。もっと大切なことを高校球児は自然と表現していた。
最後の夏は、人生においてはじまりの夏でもある。夏の甲子園は6日に開幕。グラウンドに落ちている話を書きつづる日々は、まだ続く。
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