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「ドンキ」展開のPPIHが絶好調 トイレットペーパーの“110円差”から見えた知られざる「実力」


© ITmedia ビジネスオンライン ドン・キホーテを展開するPPIHは業績が好調

コロナ禍で苦戦する企業が後を絶たない中、過去最高益をあげている企業もあります。本連載では、さまざまな小売企業の戦略を分析していますが、今回はドン・キホーテを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)を取り上げます。

2019年6月期、同社は売上高1兆3289億円、総資産1兆2786億円、時価総額1兆829億円を達成しました。国内小売業では、イオングループ、セブン&アイ・ホールディングス、ファーストリテイリングに次いで4社目のトリプルトリリオン企業となりました。

PPIHの時価総額は1兆2102億円(22年2月17日時点)で、13年対比で430%という驚異的数字を達成しています。そして、コロナ禍の21年6月期の売上高、営業利益、当期純利益ともに過去最高を更新しました。

一般ユーザーにとって、ドン・キホーテといえば売り場のにぎやかさ、特徴的なPOP、耳に残るあの店内音楽といった印象が強いのかもしれません。しかし、同社の成果を出した要因として見るべきは、緻密な戦略とチャレンジの歴史にあります。

●個店対応と権限委譲

日本の小売業界では、15年頃からセブン&アイHDなどにおいて、「脱チェーンストア」が命題として掲げられるようになりました。従来の全国一律の品ぞろえ、同一のサービス提供というチェーンストア理論ではなく、多様化・細分化したニーズに応えるためには「個店対応」こそが求められるようになったのです。

PPIHは日本で最も早くこの潮流を察知し、個店対応に取り組んできた企業といっても過言ではありません。

個店対応をするには、店舗への権限委譲が必須です。しかし、多くの小売企業は本社主導型で、本社に権限が多く持たされていました。PPIHにおいては六箇条からなる経営理念の第三条に、「現場に大胆な権限委譲をはかり、常に適材適所を見直す」と書かれているほど、現場(店舗)重視の個店対応を常としてきたのです。

個店対応の象徴的な成功店舗が、秋田店です。12年の売り上げ33.3億円が、19年には約50%アップの49.9億円にまで成長しています。同社がこの成功要因として挙げている3つのポイントは、(1)個店主義を育む環境、(2)狭くて深い権限委譲、(3)成果と報酬の連動です。PPIHは、個店対応の手応えを確実につかんでいます。

●個店対応をテクノロジーで加速させる

そして、個店対応力をさらにテクノロジーで加速させる取り組みが、19年に開始した「マシュマロ構想」です。同構想では、勘と経験に基づく値付けと、AIによって推奨された価格のどちらかを選択するか、各店舗に任せられています。その上で、綿密な検証と適切な評価をし、双方の長所をバランス良く浸透させていくプライシングモデルに着手しました。

同年には、子会社であるユニーの運営も本部主導のチェーンストア経営から、個店経営に切り替えました。店舗スタッフの売る力、売る気持ちを最大化することに注力したのです。

インバウンド需要の減少に大きく影響を受けているにもかかわらず、過去最高益を達成できたのはなぜでしょうか。コロナの巣ごもり需要が同社の業績を後押ししたのではなく、従来より深く取り組んできた個店経営こそが最大の要因だと私は捉えています。

●安売り競争で消耗しない理由

同社の価格の強さについて少し触れたいと思います。次の表では、関東地方のとあるドン・キホーテ店舗で販売していた商品の価格と、周辺店舗・ECの価格を比較しています。アパレルの商品はユニクロと拮抗していますが、それ以外の商品に関しては圧倒的な価格力を誇っているのが分かります。

例えば、某カップラーメンはドン・キホーテで107円ですが、近隣の競合店では138円でした。この表を作成するにあたり、筆者は店舗を直接訪れて価格を記録し、ECで検索するという“アナログ”な手法を採用しました。こうした手法を、全商品、全店舗で行うことは物理的に不可能ですから、そこにテクノロジーを活用していく必要があります。

また、競合比較という観点だけではなく、自社の粗利がどれくらい確保されるのかも同時に考慮しなくては、単なる消耗戦になりかねません。トイレットペーパーを例にしましょう。筆者が訪れた関東の店舗では218円のものが、北海道にある店舗では328円でした。これは、各店舗の競合環境やタイミングに応じて、価格優位性によって集客商品として勝負をかける選別をしているように見受けられます。

このように店舗に権限委譲をし、本社は店舗が適切な判断ができるようなシステムや商品別粗利算出ができる会計の在り方を構築しなくてはなりません。値引きにはリスクが伴いますから、粗利の観点を見誤ると結果として収益が下がることにもなりかねず、これを回避する仕組みが大前提なのです。PPIHはそのお手本のような企業といえます。

●小売業における5つの潮流とは?

1商品ずつの価格の強さだけではなく、価格の幅にも着目すべき点があります。調査をしたドン・キホーテの店舗では、フライパンは550~4378円まで品ぞろえされていたのに対し、近隣の競合店は1408~2780円でした。歯ブラシにおいては、110円の安価な商品から1万978円の電動歯ブラシまで取りそろえています。ディスカウントだけが強みなのではなく、品ぞろえの幅と大量の商品を圧縮陳列して発見する楽しさを提供していることも、同社の大きな特徴です。

さて、小売業における今後の潮流はどのようになるのでしょうか。下記のように、5つ示したいと思います。

【従来の展開】

(1)成長の軸:出店ありきの成長

(2)基本方針:全国一律のチェーンストアオペレーション

(3)組織・権限:本社主導

(4)テクノロジー:オムニチャネル・O2O(オーツーオー)

(5)店舗の役割:売る場所

【今後の潮流】

(1)成長の軸:M&A、小売業+α収益

(2)基本方針:個店対応力を最大化

(3)組織・権限:店舗主導、本社は後方支援

(4)テクノロジー:OMO(オーエムオー)、Web3.0の時代へ

(5)店舗の役割:発見・体験・データ取得、物流の起点

これらのポイントを、PPIHは綿密にかつ先行的に取り組んでいます。同社の普遍的な理念と、消費の変化に柔軟に対応する取り組みの両立に、今後も注目が集まります。

最後までお読みいただきありがとうございました。

(佐久間俊一)

ITmedia ビジネスオンラインより転用


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