流用で処分歴ある市職員、部署多忙で再び現金扱う業務に…4か月後には横領始める
山形県新庄市の職員だった男(26)(詐欺容疑で逮捕、送検)が下水道受益者負担金・分担金を横領したとされる問題で、市は、この職員が過去に同様の問題を起こした後の一時期は現金を扱わせなかったが、所属部署の業務が多忙となり再び現金を扱わせていたことが、わかった。職員に現金を扱う機会を制限する自治体もある中、同市のガバナンス(統治能力)や事務手続きに問題はなかったか。再発を防ぐ手立てを探った。(森田純矢、鈴木恵介)
新庄市によると、男は2014年度に採用され、市民課に配属された。16~17年度に職場の親睦会費約40万円を私的に流用したとして、18年1月に減給の懲戒処分を受けた。同年4月、上下水道課に異動したが、市は当初、現金を扱う業務はさせなかった。
しかし、下水道事業の公営企業化に向けた準備が19年度から始まるのを前に、当時の上司は同年3月下旬、総務課に対し、男にも現金を扱わせて差し支えないか承認を求めた。上下水道課の業務量増加を見越し、「仕事の態度に問題はなく、本人も反省している様子に見えた」からだという。総務課から認められたことを受け、19年4月から現金を扱うようになった。
この判断が裏目に出て、約4か月後から横領が始まったとされ、今月5日付で懲戒免職処分となった。総務課の担当者は「短い期間で判断する必要があったが、もっと吟味するべきだった」と悔やむ。
◇ 金銭絡みの不祥事で懲戒処分を受けた職員の処遇に頭を悩ます自治体は多い。
酒田市の担当者は「処分歴を配慮して適材適所で部署を決め、各部署でも所属長が業務の振り分けの際に考慮する。ただ、処分内容が様々なので、決まりがあるわけではない」と説明。南陽市の担当者は「現金を扱わない部署はなかなかなく、一定のルールを設けて対応するのは難しい」と打ち明ける。
今回の問題では、市民が直接窓口で納めた現金が狙われた。新庄市では、その都度、窓口で負担金・分担金を受け取った職員が、近くの別庁舎にある銀行の派出所に持参し入金していた。
新庄市を含む県内13市は、いずれも納入通知書を該当者に送付し、金融機関などでの支払いを求めている。だが、通知書を紛失したなどの理由で窓口で納めようとする市民もいるのが実情だ。
新庄市以外の12市の中には、職員が現金を扱わないようにしているケースがあった。
山形、鶴岡、酒田、天童、南陽市は、窓口での対応を民間会社に委託。民間のノウハウを利用した経営の効率化や職員の負担軽減を図るのが目的だが、職員が現金を扱わずに済んでいる。ただ、「優れたノウハウを持った企業で教育を受けた社員が担う方が安心だ」(鶴岡市の担当者)とメリットを強調する声がある一方、委託していないある自治体の担当者からは「過去に外部委託も検討したが、費用がかさむことがわかり、断念した」と、予算確保の難しさに言及する声もあった。
また、村山市は、なるべく職員が現金を扱わないように、午前9時~午後2時に窓口に納めに来た市民に対しては、庁舎内の銀行派出所での振り込みを依頼。同2時以降に来た場合は職員が対応して、翌日に金融機関に入金するという。
新庄市を含む他の7市は、直接窓口へ支払いに来た場合は、市職員が現金を受け取り、金融機関などに入金している。
新庄市では今回、横領が始まったとされる時期から把握まで2年以上かかった。市は今月上旬、新庄署に被害届を提出したといい、市の担当者は「各課にお金の扱い方を聞き取り、事務手続きの見直しや再発の防止に向けた職員教育を徹底したい」としている。
東北公益文科大の小野英一教授(行政学)は「行政事務のチェック体制が不十分と言わざるを得ない。人事と業務のマネジメントを引き締める必要がある」と指摘する。
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