アスクワイルドモア前走10着の敗因は『落鉄』…蹄鉄は競走能力をそぐのか?【獣医師記者コラム・競馬は科学だ】
- スポーツ
- 2022年2月4日
© 中日スポーツ 提供 きさらぎ賞に出走するアスクワイルドモア
◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」
きさらぎ賞に臨むアスクワイルドモアは前走のホープフルSで5番人気10着と大敗。敗因として「落鉄」が挙げられている。
落鉄は人気馬の敗因としてしばしば挙げられる。だから大学で馬について学ぶまで、記者は蹄鉄が馬の加速に資する加速器として働くと思っていた。
けれど、米国などで使われるスパイク鉄を別にすればそれは大きな間違いだ。蹄鉄の唯一にして最大の効能は護蹄だ。
昨年の東京五輪馬術競技で、蹄鉄に関する“事件”があった。スウェーデン馬術チームの蹄管理が基本的に裸蹄(はだし)だったのだ。それで外連味(けれんみ)なく負けていたのなら、笑いものになって終了なのだが、障害馬術団体で金。同個人がジャンプオフの末の銀。
蹄は馬の歩様の癖によって、蹄底面一様な負荷をかけるということが難しい。裸蹄で放置すると例えば右蹄尖部から先に減って着地時のバランスが崩れ、歩様が悪化するといったことが起こる。装蹄すれば蹄は摩耗しないし、履き替えれば偏って減った蹄底を平らに戻せる。管理しやすい。
一方で、着地時に蹄が広がって、脚を浮かせると戻るという蹄底の伸び縮みは小さくなる。この蹄の動きは抹消血を体幹に押し戻す働き「蹄機作用」を備えている。「蹄は第2の心臓」と言われるのはこのためだ。近年普及した接着装蹄では、くぎによる装蹄よりさらに蹄機作用が制限される。
競走では、馬場表面による蹄底の擦過傷リスクや、片方だけの落鉄では着地時の違和感も生じるだろう。このことで落鉄が敗因になること自体は間違いではないだろう。けれど、長期的な蹄の摩耗や着地時の違和感を防ぐことができれば、裸蹄は決して馬の能力の足を引っ張らない。
スウェーデン馬術チームは、馬に蹄底を均等に着地する完成度の非常に高い歩法を身につけさせ、裸蹄によるハイパフォーマンスを実現したと考えられる。
落鉄下の競走を経たサラブレッドについては、単にその1走を度外視するだけでなく、その後、歩法のバランスが保たれているかどうかを注意深く見る必要がある。アスクワイルドモアに関しては、相変わらず調教の脚さばきはきれいだ。
中日スポーツより転用
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