打倒スマホ!ソニーが動画用カメラで挑む新境地 デジカメ市場が縮小する中で、生き残りを模索
- 政治・経済
- 2021年12月16日
「今まではiPhoneでVlogの撮影をしていたが、手軽にクオリティーが高い動画を作りたいと思い、Vlog撮影専用のカメラを購入した」。
そう語るのはコロナ禍での外出自粛をきっかけに、動画撮影を始めた若手ユーチューバーだ。日々の何気ない1コマや、その日のファッション、商品のレビューなどをYouTube上にアップしている。
このような日常を記録した動画は「Vlog(ブイログ)」と呼ばれ、若者を中心に人気を集めている。そこに目をつけたのが、ソニーだ。2020年6月にVlog撮影に特化した、コンパクトデジタルカメラ「ZV-1」を投入し、翌年9月にはミラーレスの「ZV-E10」を発売。冒頭のユーチューバーもソニーのVlog用カメラを購入した。「小型軽量で持ち運びがしやすいし、動画撮影向けの機能が充実している点に惹かれた」と話す。
YouTubeなど動画配信プラットフォームへの投稿や視聴が増えるにつれ、動画撮影に適したカメラの需要は高まっている。調査会社BCNによると、2021年9~11月の3カ月間、ZV-E10はミラーレス一眼の月間実売数ランキングでトップ3にランクインし続けた。家電量販店大手ビックカメラの社員も「ソニーのVlog用カメラを『指名買い』する若者が急増している」と話す。
動画撮影に長年取り組んできたソニー
Vlog用カメラの投入の経緯について、同社のイメージングプロダクツ&ソリューションズ事業本部カメラ第一事業部の太田和也ゼネラルマネージャーは「いままでデジカメを触ったことがない若者でも、動画を入口にデジカメに触ってもらえるのではないかと考えた」と語る。
ソニーは1981年にスチルビデオカメラ「マビカ」を試作するなど、動画撮影機材の開発に長年取り組んできた。「ハンディカム」をはじめ、ミラーレス一眼「α」シリーズでも8K動画に対応したモデルを投入するなど、動画撮影では一日の長がある。
一方で、スマートフォンでの動画撮影に慣れている若年層には、ピントの合う範囲を決める「絞り値」など、難しい操作は馴染まない。「α」シリーズなどで培ってきた従来技術を生かしながらも、Vlog撮影用にどんな機能を盛り込んだほうがいいのか、何度も議論を重ねた。そのうえで、小じわやシミなどの肌トラブルを目立たなくすることができる美肌機能や、ボタンを押すだけで商品にカメラのフォーカスを当てることができる商品レビュー用設定など、Vlog撮影に適した機能を搭載した。
マーケティングにも力を入れている。ソニーのVlog用カメラの紹介サイトを見ると、画素数や、ISO感度など、難しい言葉は一切出てこない。「どんなシーンもかんたんきれいにVlog映え」、「ワンタッチで背景をぼかして印象的な映像に」など、カメラに詳しくなくても、製品の魅力が伝わるような言葉が並んでいる。
ユーチューバーなどインフルエンサーの活用もVlog用カメラの人気を後押しした。登録者数1000万人超の有名ユーチューバーのヒカキンが購入したZV-1を紹介する動画の再生回数は、約240万回(21年12月現在)。動画効果もあり、ZV-1は発売から数カ月は家電量販店で入荷待ちが続出するほどの売れ行きだったという。「インフルエンサーから人気が広がったのは、今までのカメラ製品のプロモーションとは大きく異なる」とソニーマーケティングの今井信祐氏は語る。
デジカメ市場は縮小している
スマホの普及と、撮影機能の向上に押され、デジタルカメラの出荷台数は2010年の1億2146万台をピークに、2020年にはピーク時の13分の1以下にまで減少。特に若年層はスマホでの撮影に慣れているため、カメラの購入にはなかなかつながらない。また、スマホの静止画撮影の性能も年々向上している。プロ・ハイアマチュア以外は、カメラで静止画を撮影する必要がないレベルにまできている。
そこでソニーやキヤノン、ニコンといった主要カメラメーカーは、スマホと差別化が図れる動画撮影に特化したカメラを強化している。ただキヤノンやニコンが得意とするのは、主に報道カメラマンが使うようなプロやハイアマチュア向け機種だ。一般の若者が使うには難易度も高い。一方で、誰でも簡単に使えるソニーのVlog用カメラは他社とも差別化ができている。
ただし、若者のブームは過ぎ去るのも早い。Vlogもいつまで人気が続くかは未知数だ。他社も虎視眈々と若年層向けの製品を投入する中で、ソニーはVlog用カメラ以外でも、若年層を取り込み続けることができるか。
東洋経済オンライン より転用
コメントする