モスクの大音量に抗議すると処罰対象? インドネシアの宗教的な不協和音
- 国際
- 2021年11月3日
【11月3日 AFP=時事】インドネシアの首都ジャカルタの郊外。毎日午前3時になると、イスラム教徒のリナさん(仮名、31)はスピーカーから鳴り響く音声でたたき起こされる。あまりの騒音に不眠症と不安障害を発症し、何かを食べようとしても吐き気がして受け付けられなくなった。それでも、怖くて苦情は言えないと話す。収監されるか襲撃される可能性があるからだ。
騒音の原因は、隣のモスク(イスラム礼拝所)だ。大音量でアザーン(礼拝の呼び掛け)を行っている。
世界最多のイスラム教徒が暮らすインドネシアでは、モスクとアザーンは重視され、批判すればイスラム教への冒涜(ぼうとく)と見なされる可能性がある。場合によっては、最高5年の禁錮刑が科される。
「思い切って苦情を訴える人などここにはいません」とリナさんは言う。報復を恐れ、仮名で取材に応じた。
「スピーカーは礼拝の呼び掛けだけではなく、朝の礼拝時間の30~40分前に人々を起こすためにも使われています」とAFPに語った。半年間、騒音に耐え続け、もう限界だと話す。
モスクのスピーカー放送がうるさいという書き込みはネット上では増えてきている。しかし、反感を買う恐れもあり、実際の苦情の数がどれほどあるのか信頼できる公式の統計はない。
東南アジアにある群島国家インドネシアはかつて、さまざまな宗教の信徒が共存し、宗教的に寛容なことで知られていた。しかし、そうした独特の穏健なイスラム主義が強硬派の脅威にさらされているという懸念が広がっている。
インドネシア国内には、およそ75万のモスクがある。中規模の施設でも建物の外に設置されたスピーカーが少なくとも12個はあり、1日5回、アザーンを流している。
リナさんは、毎日安眠を妨害され、健康に悪影響が出た。
「不眠症になり、不安障害と診断されました」とリサさんは言う。「今は、できるだけ体を疲労させて、騒音の中でも目が覚めないように努力しています」
一方、インドネシア・モスク評議会(Indonesian Mosque Council)も、地元社会との摩擦をなくす動きに出ている。音響設備を修繕し、研修を行うサービスをモスクごとに無料で提供している。このプロジェクトにはおよそ7000人の技術者が参加し、すでに7万か所以上のモスクで音響を調整してきた。
■「苦情を訴えても大変な目に遭うだけ」
この問題は、長年議論を呼んできた。
2012年、当時のブディオノ(Boediono)副大統領(インドネシアに多い1語のみの名前)が礼拝を呼び掛けるスピーカーの音量を制限する考えを示し、非難を浴びた。
2016年には、北スマトラ(North Sumatra)州タンジュンバライ(Tanjung Balai)市で十数か所の仏教寺院が大勢の抗議デモ参加者に放火される騒動が起きた。中国系インドネシア人の仏教徒、メイリアナ(Meiliana)さん(名前は1語)が、モスクのアザーンの音量がうるさいと苦情を入れたことがきっかけだった。
4人の子どもがいるメイリアナさんは、2018年に禁錮1年6月の判決を受けた。
インドネシア人がこうした苦情によく憤慨するのは、モスクのスピーカー放送は文化的な表現の一つというより、宗教上欠かせないものだと誤解しているからだ。こう説明するのは、ジャカルタのシャリフ・ヒダーヤットゥラ国立イスラム大学(Syarif Hidayatullah State Islamic University)のアリ・ムンハニフ(Ali Munhanif)教授(政治学)だ。
「こうした問題は、技術の進歩と過剰な宗教的表現がぶつかると起きる。礼拝の呼び掛けが何の規制も受けないと、社会の和が乱されかねない」と語った。
リナさんは、かたくなに苦情を訴えようとしない。
「あの(収監された仏教徒、メイリアナさんの)件で分かりました。苦情を訴えても大変な目に遭うだけ」と言って譲らなかった。「このまま我慢するしかありません。もしくは、家を売るかです」
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