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まるで奴隷、イタリア農村で搾取され立ち上がるインド人移民労働者


7月26日 AFP】インド人の移民労働者バルビア・シン(Balbir Singh)さん(49)がイタリアで家畜の世話をした6年間は、まるで奴隷のような日々だった。

イタリア・サバウディアの自宅で取材に応じるインド人移民労働者のバルビア・シンさん(2021年6月24日撮影)。© Filippo MONTEFORTE / AFP イタリア・サバウディアの自宅で取材に応じるインド人移民労働者のバルビア・シンさん(2021年6月24日撮影)。

「1日12~13時間働いていました。日曜日もです。休日も休憩もありません」とシンさんはAFPに語り、その過酷さをイタリア語で「マチェッロ(macello、めちゃくちゃ)」と言い表した。

首都ローマの南にある農村地帯ラティーナ(Latina)県では、シンさんをはじめ、数万人のインド人の移民労働者が暮らしている。

シンさんが農場主から渡された1か月の給料は、100~150ユーロ(約1万3000円~2万円)。時給にして50円を上回る程度だ。農業従事者の法定最低賃金は時給10ユーロ(約1300円)前後だ。

シンさんはフェイスブック(Facebook)やメッセージアプリのワッツアップ(WhatsApp)を通じて地元のインド人社会の有力者やイタリア人の人権活動家に助けを求め、2017年3月17日、警察の強制捜査で救出された。

警察に見つけ出された時のシンさんは、トレーラーハウスに住み、ガスも電気もなく、お湯も出ない生活を送っていた。食べ物は、雇い主の残飯かニワトリや豚の余った餌。家畜を洗うためのホースをシャワー代わりにしていた。

助けてくれる弁護士が見つかった時は、雇い主に「おまえを殺してやる。穴を掘って埋めてやる」と言われたと話す。「銃を持っていました。この目で見たんです」

イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で働く移民労働者ら(2021年7月1日撮影)。© Filippo MONTEFORTE / AFP イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で働く移民労働者ら(2021年7月1日撮影)。

何度か殴られ、身分証明書も取り上げられたという。

シンさんの元雇い主は現在、労働搾取の罪に問われ、裁判にかけられている。シンさんは報復を恐れ、身を隠して暮らしている。

極端な例に思えるが、かつて湿原があったアグロ・ポンティーノ(Agro Pontino)と呼ばれるラティーナ県の平野やイタリア各地でも、移民労働者が農場で過酷に搾取されるケースが後を絶たない。

イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村付近で自転車に乗って仕事に向かう移民労働者(2021年7月1日撮影)。© Filippo MONTEFORTE / AFP イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村付近で自転車に乗って仕事に向かう移民労働者(2021年7月1日撮影)。

現代の奴隷制の実態を調査した国連(UN)特別報告者の2018年の推計では、イタリアでは40万人以上の農業労働者が搾取される危険にさらされ、10万人近くが「非人道的な労働条件」に直面している。

イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で働く移民労働者ら(2021年7月1日撮影)。© Filippo MONTEFORTE / AFP イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で働く移民労働者ら(2021年7月1日撮影)。

■犯罪集団の支配とオピオイドのまん延

今年6月には、マリ出身の27歳の若者が、南部プーリア(Apulia)地方の農地で一日中働かされた後に死亡する事例が起きた。その日の最高気温は40度だった。

アグロ・ポンティーノは温室栽培や花作り、水牛の乳を原料としたモッツァレラチーズ生産の中心地で、インド人が増えてきたのは1980年代半ば以降だ。かつては湿地帯で、1930年代に独裁者ベニト・ムソリーニ(Benito Mussolini)政権によって大規模な干拓事業が行われた。

シンさんの救出に助力した社会学者で人権活動家のマルコ・オミッツォロ(Marco Omizzolo)氏によると、アグロ・ポンティーノに住んでいるインド人は2万5000〜3万人で、ほとんどがパンジャブ(Punjab)地域出身のシーク教徒だ。

イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で働く移民労働者ら(2021年7月1日撮影)。© Filippo MONTEFORTE / AFP イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で働く移民労働者ら(2021年7月1日撮影)。

地主に代わって農業労働者を集める「カポラーリ(caporali)」と呼ばれる犯罪集団の元締めに牛耳られ、契約書があっても、報酬はわずかしかもらっていないことが多い。

イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で働く移民労働者ら(2021年7月1日撮影)。© Filippo MONTEFORTE / AFP イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で働く移民労働者ら(2021年7月1日撮影)。

「28日働いても4日分しか給与明細書に付かず、月末に受け取るのは200〜300ユーロ(約2万6000〜3万9000円)の場合もある」とオミッツォロ氏はAFPに語った。

最近の警察捜査では、さらに深刻な事態が明らかになった。インド人社会でのオピオイドのまん延だ。

沿岸都市サバウディア(Sabaudia)で逮捕された医師は、がん患者に処方されるオキシコドン系の強力な鎮痛剤1500箱以上をインド人の農業従事者222人に違法に処方した容疑に問われている。

イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で自転車に乗って帰宅する移民労働者(2021年6月24日撮影)。© Filippo MONTEFORTE / AFP イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で自転車に乗って帰宅する移民労働者(2021年6月24日撮影)。

「この薬物で苦痛や疲労が緩和され、長時間労働を可能にしていたと思われる」とラティーナの主任検察官ジュゼッペ・デ・ファルコ(Giuseppe De Falco)氏はAFPに語った。

■「権利のために闘うことに意味はある」

農業労働者に対する搾取の問題は議会でも取り上げられた。シンさんの元雇用主が起訴されたのも、カポラーリを取り締まる法律が2016年に成立したことによる。

しかし、検査や労働監督官が足りず、法律が十分に運用されていないと労働組合は指摘する。

社会学者のオミッツォロ氏は、ラティーナ県で農業従事者が虐待を受けている実態を数年かけて調査した。圧倒的にインド人が多いベラファーニア(Bella Farnia)村では、素性を隠して3か月間働いた。

何度か殺害予告を受け、現在はシンさんと同じく、警察の保護下にある。2019年には、「勇気ある活動」を認められてセルジョ・マッタレッラ(Sergio Mattarella)大統領に爵位を授与された。

イタリア・サバウディアで写真撮影に応じるインド人の自治会リーダーを務める男性(2021年6月24日撮影)。© Filippo MONTEFORTE / AFP イタリア・サバウディアで写真撮影に応じるインド人の自治会リーダーを務める男性(2021年6月24日撮影)。

オミッツォロ氏は2016年、イタリアの農業・食品産業労働者連盟(FLAI-CGIL)と共にアグロ・ポンティーノのインド人移民による初のストライキを計画し、労働者らを支えた。

ストライキ以後、移民労働者の時給は3ユーロ(約390円)以下から5ユーロ(約650円)前後まで上がったが、それでも法定最低賃金の半分に届く程度だ。

労働条件はいまだ理想からは程遠いとオミッツォロ氏は認める。しかし、抗議を通じてインド人労働者は「権利のために闘うことに意味はある」と考えるようになったと話す。

AFPBB Newsより転用

7月26日 AFP】インド人の移民労働者バルビア・シン(Balbir Singh)さん(49)がイタリアで家畜の世話をした6年間は、まるで奴隷のような日々だった。

イタリア・サバウディアの自宅で取材に応じるインド人移民労働者のバルビア・シンさん(2021年6月24日撮影)。© Filippo MONTEFORTE / AFP イタリア・サバウディアの自宅で取材に応じるインド人移民労働者のバルビア・シンさん(2021年6月24日撮影)。

「1日12~13時間働いていました。日曜日もです。休日も休憩もありません」とシンさんはAFPに語り、その過酷さをイタリア語で「マチェッロ(macello、めちゃくちゃ)」と言い表した。

首都ローマの南にある農村地帯ラティーナ(Latina)県では、シンさんをはじめ、数万人のインド人の移民労働者が暮らしている。

シンさんが農場主から渡された1か月の給料は、100~150ユーロ(約1万3000円~2万円)。時給にして50円を上回る程度だ。農業従事者の法定最低賃金は時給10ユーロ(約1300円)前後だ。

シンさんはフェイスブック(Facebook)やメッセージアプリのワッツアップ(WhatsApp)を通じて地元のインド人社会の有力者やイタリア人の人権活動家に助けを求め、2017年3月17日、警察の強制捜査で救出された。

警察に見つけ出された時のシンさんは、トレーラーハウスに住み、ガスも電気もなく、お湯も出ない生活を送っていた。食べ物は、雇い主の残飯かニワトリや豚の余った餌。家畜を洗うためのホースをシャワー代わりにしていた。

助けてくれる弁護士が見つかった時は、雇い主に「おまえを殺してやる。穴を掘って埋めてやる」と言われたと話す。「銃を持っていました。この目で見たんです」

イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で働く移民労働者ら(2021年7月1日撮影)。© Filippo MONTEFORTE / AFP イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で働く移民労働者ら(2021年7月1日撮影)。

何度か殴られ、身分証明書も取り上げられたという。

シンさんの元雇い主は現在、労働搾取の罪に問われ、裁判にかけられている。シンさんは報復を恐れ、身を隠して暮らしている。

極端な例に思えるが、かつて湿原があったアグロ・ポンティーノ(Agro Pontino)と呼ばれるラティーナ県の平野やイタリア各地でも、移民労働者が農場で過酷に搾取されるケースが後を絶たない。

イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村付近で自転車に乗って仕事に向かう移民労働者(2021年7月1日撮影)。© Filippo MONTEFORTE / AFP イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村付近で自転車に乗って仕事に向かう移民労働者(2021年7月1日撮影)。

現代の奴隷制の実態を調査した国連(UN)特別報告者の2018年の推計では、イタリアでは40万人以上の農業労働者が搾取される危険にさらされ、10万人近くが「非人道的な労働条件」に直面している。

イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で働く移民労働者ら(2021年7月1日撮影)。© Filippo MONTEFORTE / AFP イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で働く移民労働者ら(2021年7月1日撮影)。

■犯罪集団の支配とオピオイドのまん延

今年6月には、マリ出身の27歳の若者が、南部プーリア(Apulia)地方の農地で一日中働かされた後に死亡する事例が起きた。その日の最高気温は40度だった。

アグロ・ポンティーノは温室栽培や花作り、水牛の乳を原料としたモッツァレラチーズ生産の中心地で、インド人が増えてきたのは1980年代半ば以降だ。かつては湿地帯で、1930年代に独裁者ベニト・ムソリーニ(Benito Mussolini)政権によって大規模な干拓事業が行われた。

シンさんの救出に助力した社会学者で人権活動家のマルコ・オミッツォロ(Marco Omizzolo)氏によると、アグロ・ポンティーノに住んでいるインド人は2万5000〜3万人で、ほとんどがパンジャブ(Punjab)地域出身のシーク教徒だ。

イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で働く移民労働者ら(2021年7月1日撮影)。© Filippo MONTEFORTE / AFP イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で働く移民労働者ら(2021年7月1日撮影)。

地主に代わって農業労働者を集める「カポラーリ(caporali)」と呼ばれる犯罪集団の元締めに牛耳られ、契約書があっても、報酬はわずかしかもらっていないことが多い。

イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で働く移民労働者ら(2021年7月1日撮影)。© Filippo MONTEFORTE / AFP イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で働く移民労働者ら(2021年7月1日撮影)。

「28日働いても4日分しか給与明細書に付かず、月末に受け取るのは200〜300ユーロ(約2万6000〜3万9000円)の場合もある」とオミッツォロ氏はAFPに語った。

最近の警察捜査では、さらに深刻な事態が明らかになった。インド人社会でのオピオイドのまん延だ。

沿岸都市サバウディア(Sabaudia)で逮捕された医師は、がん患者に処方されるオキシコドン系の強力な鎮痛剤1500箱以上をインド人の農業従事者222人に違法に処方した容疑に問われている。

イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で自転車に乗って帰宅する移民労働者(2021年6月24日撮影)。© Filippo MONTEFORTE / AFP イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で自転車に乗って帰宅する移民労働者(2021年6月24日撮影)。

「この薬物で苦痛や疲労が緩和され、長時間労働を可能にしていたと思われる」とラティーナの主任検察官ジュゼッペ・デ・ファルコ(Giuseppe De Falco)氏はAFPに語った。

■「権利のために闘うことに意味はある」

農業労働者に対する搾取の問題は議会でも取り上げられた。シンさんの元雇用主が起訴されたのも、カポラーリを取り締まる法律が2016年に成立したことによる。

しかし、検査や労働監督官が足りず、法律が十分に運用されていないと労働組合は指摘する。

社会学者のオミッツォロ氏は、ラティーナ県で農業従事者が虐待を受けている実態を数年かけて調査した。圧倒的にインド人が多いベラファーニア(Bella Farnia)村では、素性を隠して3か月間働いた。

何度か殺害予告を受け、現在はシンさんと同じく、警察の保護下にある。2019年には、「勇気ある活動」を認められてセルジョ・マッタレッラ(Sergio Mattarella)大統領に爵位を授与された。

イタリア・サバウディアで写真撮影に応じるインド人の自治会リーダーを務める男性(2021年6月24日撮影)。© Filippo MONTEFORTE / AFP イタリア・サバウディアで写真撮影に応じるインド人の自治会リーダーを務める男性(2021年6月24日撮影)。

オミッツォロ氏は2016年、イタリアの農業・食品産業労働者連盟(FLAI-CGIL)と共にアグロ・ポンティーノのインド人移民による初のストライキを計画し、労働者らを支えた。

ストライキ以後、移民労働者の時給は3ユーロ(約390円)以下から5ユーロ(約650円)前後まで上がったが、それでも法定最低賃金の半分に届く程度だ。

労働条件はいまだ理想からは程遠いとオミッツォロ氏は認める。しかし、抗議を通じてインド人労働者は「権利のために闘うことに意味はある」と考えるようになったと話す。

【翻訳編集】AFPBB News

7月26日 AFP】インド人の移民労働者バルビア・シン(Balbir Singh)さん(49)がイタリアで家畜の世話をした6年間は、まるで奴隷のような日々だった。

イタリア・サバウディアの自宅で取材に応じるインド人移民労働者のバルビア・シンさん(2021年6月24日撮影)。© Filippo MONTEFORTE / AFP イタリア・サバウディアの自宅で取材に応じるインド人移民労働者のバルビア・シンさん(2021年6月24日撮影)。

「1日12~13時間働いていました。日曜日もです。休日も休憩もありません」とシンさんはAFPに語り、その過酷さをイタリア語で「マチェッロ(macello、めちゃくちゃ)」と言い表した。

首都ローマの南にある農村地帯ラティーナ(Latina)県では、シンさんをはじめ、数万人のインド人の移民労働者が暮らしている。

シンさんが農場主から渡された1か月の給料は、100~150ユーロ(約1万3000円~2万円)。時給にして50円を上回る程度だ。農業従事者の法定最低賃金は時給10ユーロ(約1300円)前後だ。

シンさんはフェイスブック(Facebook)やメッセージアプリのワッツアップ(WhatsApp)を通じて地元のインド人社会の有力者やイタリア人の人権活動家に助けを求め、2017年3月17日、警察の強制捜査で救出された。

警察に見つけ出された時のシンさんは、トレーラーハウスに住み、ガスも電気もなく、お湯も出ない生活を送っていた。食べ物は、雇い主の残飯かニワトリや豚の余った餌。家畜を洗うためのホースをシャワー代わりにしていた。

助けてくれる弁護士が見つかった時は、雇い主に「おまえを殺してやる。穴を掘って埋めてやる」と言われたと話す。「銃を持っていました。この目で見たんです」

イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で働く移民労働者ら(2021年7月1日撮影)。© Filippo MONTEFORTE / AFP イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で働く移民労働者ら(2021年7月1日撮影)。

何度か殴られ、身分証明書も取り上げられたという。

シンさんの元雇い主は現在、労働搾取の罪に問われ、裁判にかけられている。シンさんは報復を恐れ、身を隠して暮らしている。

極端な例に思えるが、かつて湿原があったアグロ・ポンティーノ(Agro Pontino)と呼ばれるラティーナ県の平野やイタリア各地でも、移民労働者が農場で過酷に搾取されるケースが後を絶たない。

イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村付近で自転車に乗って仕事に向かう移民労働者(2021年7月1日撮影)。© Filippo MONTEFORTE / AFP イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村付近で自転車に乗って仕事に向かう移民労働者(2021年7月1日撮影)。

現代の奴隷制の実態を調査した国連(UN)特別報告者の2018年の推計では、イタリアでは40万人以上の農業労働者が搾取される危険にさらされ、10万人近くが「非人道的な労働条件」に直面している。

イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で働く移民労働者ら(2021年7月1日撮影)。© Filippo MONTEFORTE / AFP イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で働く移民労働者ら(2021年7月1日撮影)。

■犯罪集団の支配とオピオイドのまん延

今年6月には、マリ出身の27歳の若者が、南部プーリア(Apulia)地方の農地で一日中働かされた後に死亡する事例が起きた。その日の最高気温は40度だった。

アグロ・ポンティーノは温室栽培や花作り、水牛の乳を原料としたモッツァレラチーズ生産の中心地で、インド人が増えてきたのは1980年代半ば以降だ。かつては湿地帯で、1930年代に独裁者ベニト・ムソリーニ(Benito Mussolini)政権によって大規模な干拓事業が行われた。

シンさんの救出に助力した社会学者で人権活動家のマルコ・オミッツォロ(Marco Omizzolo)氏によると、アグロ・ポンティーノに住んでいるインド人は2万5000〜3万人で、ほとんどがパンジャブ(Punjab)地域出身のシーク教徒だ。

イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で働く移民労働者ら(2021年7月1日撮影)。© Filippo MONTEFORTE / AFP イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で働く移民労働者ら(2021年7月1日撮影)。

地主に代わって農業労働者を集める「カポラーリ(caporali)」と呼ばれる犯罪集団の元締めに牛耳られ、契約書があっても、報酬はわずかしかもらっていないことが多い。

イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で働く移民労働者ら(2021年7月1日撮影)。© Filippo MONTEFORTE / AFP イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で働く移民労働者ら(2021年7月1日撮影)。

「28日働いても4日分しか給与明細書に付かず、月末に受け取るのは200〜300ユーロ(約2万6000〜3万9000円)の場合もある」とオミッツォロ氏はAFPに語った。

最近の警察捜査では、さらに深刻な事態が明らかになった。インド人社会でのオピオイドのまん延だ。

沿岸都市サバウディア(Sabaudia)で逮捕された医師は、がん患者に処方されるオキシコドン系の強力な鎮痛剤1500箱以上をインド人の農業従事者222人に違法に処方した容疑に問われている。

イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で自転車に乗って帰宅する移民労働者(2021年6月24日撮影)。© Filippo MONTEFORTE / AFP イタリア・サバウディア近郊ベラファーニア村で自転車に乗って帰宅する移民労働者(2021年6月24日撮影)。

「この薬物で苦痛や疲労が緩和され、長時間労働を可能にしていたと思われる」とラティーナの主任検察官ジュゼッペ・デ・ファルコ(Giuseppe De Falco)氏はAFPに語った。

■「権利のために闘うことに意味はある」

農業労働者に対する搾取の問題は議会でも取り上げられた。シンさんの元雇用主が起訴されたのも、カポラーリを取り締まる法律が2016年に成立したことによる。

しかし、検査や労働監督官が足りず、法律が十分に運用されていないと労働組合は指摘する。

社会学者のオミッツォロ氏は、ラティーナ県で農業従事者が虐待を受けている実態を数年かけて調査した。圧倒的にインド人が多いベラファーニア(Bella Farnia)村では、素性を隠して3か月間働いた。

何度か殺害予告を受け、現在はシンさんと同じく、警察の保護下にある。2019年には、「勇気ある活動」を認められてセルジョ・マッタレッラ(Sergio Mattarella)大統領に爵位を授与された。

イタリア・サバウディアで写真撮影に応じるインド人の自治会リーダーを務める男性(2021年6月24日撮影)。© Filippo MONTEFORTE / AFP イタリア・サバウディアで写真撮影に応じるインド人の自治会リーダーを務める男性(2021年6月24日撮影)。

オミッツォロ氏は2016年、イタリアの農業・食品産業労働者連盟(FLAI-CGIL)と共にアグロ・ポンティーノのインド人移民による初のストライキを計画し、労働者らを支えた。

ストライキ以後、移民労働者の時給は3ユーロ(約390円)以下から5ユーロ(約650円)前後まで上がったが、それでも法定最低賃金の半分に届く程度だ。

労働条件はいまだ理想からは程遠いとオミッツォロ氏は認める。しかし、抗議を通じてインド人労働者は「権利のために闘うことに意味はある」と考えるようになったと話す。

【翻訳編集】AFPBB News


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