ミャンマーで拘束の日本人記者、解放 成田空港に到着
- 国際
- 2021年5月15日
クーデターで国軍が権力を握ったミャンマーで、虚偽のニュースを広めたなどとして当局に訴追された日本人フリージャーナリストの北角裕樹さん(45)が14日、解放された。旅客便でヤンゴンを出発し、同日夜に成田空港に到着した北角さんは「私を助けるために多くの人が力を尽くしてくれたと聞いている。支援をしてくれた人にお礼を言いたい」と話した。
北角さんは同日午後10時半ごろ、Tシャツとジーンズ姿で報道陣の前に姿を見せた。ミャンマーを離れたことについて、「記者なので、ヤンゴンで起こっていることを伝えたいという気持ちもあったが、帰国せざるをえなくなり、悔しい気持ちもある」と胸の内を語った。
解放の知らせは突然だったという。北角さんによると13日午後5時半ごろ、収容されていたインセイン刑務所の担当者から「君は明日帰ることになる。10分で荷物をまとめなさい」と告げられた。「はじめは冗談かと思った」。その夜は警察の施設で過ごし、14日朝になって日本大使館員に身柄を引き渡された。
また、ミャンマーの人たちにも届くようにと、報道陣のカメラに向かい、「みなさんが未来のために抵抗することはとても勇敢だ。希望はある」と約1分半にわたり英語でメッセージを送った。
今後のことにも触れ、「ミャンマーの方から、世界に伝えてくれと言われたことがたくさんある。日本や多くの国の人たちに伝えたい」と述べた。
日本経済新聞の元記者の北角さんは、ミャンマーではフリーの立場で、2月1日の国軍によるクーデター直後から抗議デモなどを取材していたが、4月18日にヤンゴンの自宅で逮捕され、郊外のインセイン刑務所に収容された。北角さんが発信する国軍にとって都合の悪い情報が、「虚偽」と判断されたとみられる。暴力を受けることはなく、健康状態は良好だという。
拘束は1カ月近くに及んだが、国営テレビが5月13日夜、北角さんが解放されると報道。14日付の国営紙は、市民が職務を放棄して抗議する不服従運動などを北角さんが支援し、法律に違反したと主張する一方、「ミャンマーと日本の現在の友好的な関係と将来の関係」を考慮し、訴追が取り下げられたと伝えた。
日本政府は拘束以来、大使館などを通じてミャンマー側に北角さんの解放を求めてきた。茂木敏充外相によると、丸山市郎・駐ミャンマー大使のほか、ミャンマー国民和解担当日本政府代表を務める笹川陽平氏が働きかけたという。
茂木氏は14日の記者会見で、「率直に言って苦労した」とも述べた。日本政府関係者は「国軍による弾圧で700人以上が死亡している。拘束で北角さんが何をされるのか分からないという、強い懸念を抱いたはずだ」と指摘する。
一方で、国軍は欧米からの制裁で国際的に孤立を深めており、日本との関係を損ないたくないとの事情もあったとみられる。日本は途上国援助(ODA)を2019年度に1893億円拠出するなど、最大の援助国だった。国軍側は解放の理由で日本との友好関係に言及しており、外務省幹部は「起訴されれば、普通は解放は難しい。ミャンマー側も、日本のこれまでの取り組みを考慮したのだと思う」と述べた。
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