パレスチナ選挙延期 ハマス反発必至か 主流派ファタハ苦戦予想
- 国際
- 2021年4月30日
パレスチナ自治政府のアッバス議長は29日、5月22日に15年ぶりに実施予定だった評議会(議会)選挙を延期すると発表した。アッバス氏は、イスラエルが占領・併合している東エルサレムでの投票が認められる見通しが立たないためだと主張。だが、実際は自治政府の主流派ファタハが、選挙で敗れる可能性が出てきたためとみられる。パレスチナはファタハが統治するヨルダン川西岸とイスラム組織ハマスが実効支配するガザ地区に分裂しているが、ハマスや市民の反発は必至だ。
「(東エルサレムで)民主的権利を行使することを、諦めることはできない」。アッバス氏は29日夜のテレビ演説でこう強調し、選挙の延期を正当化した。一方、イスラエル政府は東エルサレムでの投票禁止について公式に言及していない。
アッバス氏は1月、評議会選を15年ぶりに実施すると決めた。背景には、トランプ米大統領(当時)の肩入れでイスラエルとアラブ諸国の関係改善が進み、パレスチナの孤立が深まったことがある。自治政府とハマスが、選挙を通じて融和の努力を示し、国際社会の目をパレスチナ問題に再び向けさせる狙いがあった。
だが、ファタハでは元治安担当国務相ダハラン氏系の会派と、イスラエルで服役するバルグーティ氏系の会派が離反。ファタハは3勢力に分裂し、このままでは選挙でハマスが勝利する可能性があった。
ただ選挙の延期で、汚職疑惑などで不人気だったアッバス氏の求心力が一層低下することは避けられない。ハマスはアッバス氏批判を強めるとみられ、数百人の市民は29日夜、ヨルダン川西岸ラマラなどで「選挙実施」を訴える抗議デモを起こした。
2006年の前回選挙ではハマスが圧勝し、ハマス単独の自治政府内閣が発足。だが、米国やイスラエルはハマスを「テロ組織」と見なしており、これを認めなかった。ハマスとファタハの抗争は激化し、ハマスは07年にガザ地区を武力制圧した。またファタハはヨルダン川西岸の統治を続けた。今回、再びハマスが選挙で勝利した場合、前回と同様の混乱が起きる恐れがある。このためアッバス氏は選挙の延期を決断したとみられる。
パレスチナ政策調査研究センターのハリル・シカキ代表は「パレスチナでは今後、ハマスの影響力が強化されるだろう。地域の緊張が高まるのは確実だ」と指摘する。
ハマスと敵対するイスラエルは、アッバス氏の統治が続くことを望んでおり、選挙の延期を歓迎しているとみられる。イスラエルのメディアは3月末、イスラエル総保安庁(シンベト)のトップがアッバス氏と会談し、選挙を中止するように警告したと報じていた。【エルサレム三木幸治】
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