次の衆院選から逆算? 処理水の海洋放出を決めた理由
- 政治・経済
- 2021年4月15日
菅義偉首相が13日、東京電力福島第1原発の汚染処理水の海洋放出処分を決めたことに対し、与党には、今秋までに行われる次期衆院選への影響を懸念する声が広がっている。「選挙後まで待てなかったのか」「なぜ今なのか」--。だが、首相がかつて下した判断を振り返ると、次期衆院選の時期を意識し、今回のタイミングを選んだ可能性が浮かび上がる。
「処理水の処分は、原発廃炉を進め、福島の復興を成し遂げるためには避けて通れない。(風評被害に)内閣全体で責任を持って対応していく」。首相は13日、処理水に関する関係閣僚会議の終了後、海洋放出が自身の「政治決断」だったと強調した。安倍政権が長く先送りしてきた問題だったが、首相に近い自民党ベテランは「首相はちゅうちょなく、やるべきことをやる人だ。『決められる政治』を意識している」と指摘する。
だが、多くの自民党議員にとっては「寝耳に水」だった。閣僚経験者は「このタイミングの決断は『よくやった』とはならない。選挙にマイナスだ」と首をかしげる。根本匠元復興相ら自民党福島県連の3議員は14日、首相官邸を訪れ、加藤勝信官房長官に「国民の理解と納得を得るべくしっかりと説明責任を果たしてほしい」と訴えた。
首相は衆院選への影響を考えなかったのか。政府関係者は「辺野古のケースと一緒だ」と指摘する。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の同県名護市辺野古への移設に向け、安倍政権がとった施策のことだ。
安倍政権で、当時官房長官だった菅氏は辺野古移設の旗振り役を務めてきた。政権が辺野古への土砂投入に踏み切ったのは、移設の賛否を問う県民投票の2カ月半前の18年12月だった。当時の官邸関係者は「県民投票からなるべく離し、投票への影響を抑える。同時に、投票前に移設を既成事実化する」と説明した。
辺野古のケースをあてはめると、汚染処理水の処分問題も、次期衆院選前に海洋放出の方針を既成事実化するのが狙いで、さらに衆院選の時期がまだ遠いとの観測も成立する。
今回の方針決定は衆院北海道2区補選の告示日で、25日投開票の同補選と参院広島選挙区再選挙と参院長野選挙区補選への悪影響を懸念する声もあったが、首相は3選挙ではなく、福島県など東北の沿岸部も選挙区となる次期衆院選を見据えている――といえそうだ。
それでは次期衆院選はいつなのか。首相周辺の多くは「本命は東京オリンピック・パラリンピック閉幕後の9~10月の衆院解散・総選挙」とみる。党内では7月開幕の東京オリンピック前の衆院解散説も消えないが、先の政府関係者は「首相は秋の衆院解散を念頭に、なるべく選挙から時期を離して海洋放出を決めたのだろう」と推測する。
一方、野党は衆院選の時期によらず、海洋放出問題を争点の一つに位置づける構えだ。立憲民主党など野党4党は14日、国対委員長会談を開き、首相が出席する予算委員会の開催を求める方針を決めた。会談後、立憲の安住淳国対委員長は記者団に「震災後の風評被害で地元は大変苦しんでいる。時間切れで海洋放出しかないという結論だったら許されない」と批判した。【小山由宇】
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