日本郵政、「楽天への1500億円出資」にみる焦り 宅配便市場での万年3位から抜け出せるか
- 政治・経済
- 2021年3月20日
「物流事業の業務効率化だけでなく、荷物を積極的に増やしたい」――。記者会見の場で語られた増田寛也・日本郵政社長の言葉には、焦りがこもっていた。
3月12日、日本郵政と楽天は資本業務提携を結んだと発表した。物流事業に加え、携帯電話事業や金融事業での協業を目指す。楽天は3月下旬に第三者割当増資を実施。日本郵政が約1500億円を投じ、楽天株式を8.3%引き受ける。今回の提携で日本郵政は楽天の4位株主になる。
増田社長は今回の提携でEC(ネット通販)市場拡大の追い風を受ける宅配便(ゆうパック)の需要取り込みを加速したい考えだ。
足かせとなっている郵便物の減少
巨額の資金を費やしてまで日本郵政が連携強化を急ぐ背景には、子会社である日本郵便の業績不振がある。2020年4~12月期の日本郵便の郵便・物流事業は、売上高が前年同期比3.1%減、営業利益が同27.3%減となった。足かせとなっているのが、大きな割合を占める郵便物だ。
郵便物の取扱量は2001年をピークに減少し続けている。新型コロナウイルスの感染拡大でダイレクトメールなど企業の広告活動が鈍ったこともあり、2020年4~12月期の郵便物の取扱量は前年同期比7.8%減、1キログラムまでの印刷物などを安価で届けるゆうメールも同8.4%減と縮小した。
冒頭の増田社長の発言も、一刻も早く郵便から宅配便への比重を移したいという焦りから出た本音だろう。
追い風が吹く宅配便市場で日本郵便はライバルの後塵を拝している。2020年4~12月期の日本郵便のゆうパック取扱個数は8.4億個(前年同期比15.7%増)と、増えてはいる。ただ郵便物の取り扱いが減る中で、その余剰人員を活用するうえでは取扱個数はまだまだ少ない。
実際、対するヤマト運輸の宅配便取扱個数は15.9億個(同15%増)、採算管理を徹底しシェアを追わない方針を採る佐川急便でさえ10.6億個(同6%増)もある。万年3番手の日本郵便が埋めなければならない差は大きい。
EC荷物をめぐる獲得競争は激化する一方だ。業界首位のヤマトは、EC事業者向け配送サービス「EAZY」を展開し、ZOZOやアスクル、ニッセンホールディングスなど大口荷主の囲い込みを急いでいる。
2020年3月、ヤマトは大手EC事業者のヤフーと業務提携に向け基本合意。商品の在庫管理なども含めて、受注から宅配までの物流業務をヤマトが一括で請け負う「フルフィルメントサービス」を出店者に提供するなど、関係を深めている。
ヤフーのショッピング統括部・事業開発室の山下滋室長は、「ヤフーにとっては配送が目下の課題だ。ヤマトに支援してもらいつつ配送品質を改善したい」と強調する。
他方、EC最大手であるアマゾンは自前物流網の構築に腐心している。同社は荷物の配送について中小配送事業者(デリバリープロバイダー)や個人ドライバーへの直接委託を進めており、日本郵便が今後、アマゾンの荷物をどこまで取り込めるかは未知数だ。
ゆえに、日本郵便からすれば、残された楽天は絶対に逃してはならない大口荷主といえる。2020年12月期の楽天の国内EC流通総額は4.7兆円。その荷物を優先的に受け入れることで、宅配便の荷物数拡大を加速できる。
DX推進の切り札に
とはいえ今回、日本郵政が投じる約1500億円は決して小さくない額だ。これに見合う成果をどう出すのかが注目される。
今回の資本提携は楽天側から打診したという。携帯事業「楽天モバイル」の設備投資に多額の資金を必要とするほか、独自の物流網整備に邁進してきた同社には、資金面・実務面の両方でメリットが大きい。では日本郵政はその見返りとして何を求めるのか。
焦点となるのが日本郵政のDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。増田社長は会見の場で「日本郵政は(DXが)遅れている部分がある。楽天にはDXの先進的な知識やノウハウがあるので活かしたい」と語っている。
例えば、物流事業では楽天が持つECの受発注データやAI(人工知能)を活用して配送需要を事前に予測するなど、業務効率化に向けた取り組みを検討している。「デジタル人材を楽天から受け入れる」(増田社長)ことも視野に入れている。遅れているDXが一気に進むのであれば、資本提携に踏み込むかいもあるだろう。
ただ、協業する事業領域と大まかな方針は決まっているものの、その具体策はまだ見えてこない。明確な成果をもって株主に対する説明責任を果たすことが、増田社長に求められる。
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