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ヤフーLINE統合、EC・金融で見据える「勝ち筋」 川邊・出澤両トップがコロナ禍で抱いた危機感


3月1日の会見で川邊氏(左)と出澤氏(右)が統合後の戦略を語った(撮影:尾形文繁)© 東洋経済オンライン 3月1日の会見で川邊氏(左)と出澤氏(右)が統合後の戦略を語った(撮影:尾形文繁)

発表から1年4カ月。ヤフーとLINEの経営統合が2021年3月1日に完了した。持ち株会社であるZホールディングス(ZHD)のトップには、ヤフーの川邊健太郎社長、LINEの出澤剛社長がCo-CEO(共同最高経営責任者)として就任。1日に行われた記者会見に両名がそろって登壇し、統合後の戦略について語った。

新体制では、ヤフー・LINEが従来強みとして来た「検索・ポータル」、「広告」、「メッセンジャー」を根幹領域として引き続き育成する。加えて、新たな注力領域として「コマース」(EC、店頭向けソリューションなど)、「ローカル・バーティカル」(飲食店予約、旅行予約など)、「フィンテック」(スマートフォン決済、証券、ローンなど)「社会」(行政、防災、ヘルスケアなど)を設定。両社の既存サービス間の連携やまったく新しいサービスの創出に取り組む。

エンジニアを5000人増員

どの事業にも活用を推進していくAI(人工知能)については、向こう5年間で5000億円の開発投資を行う。併せて同期間、AI活用に携わる国内外のエンジニアを5000人増員することも計画。これらを行いつつ、ZHDは2023年度に売上収益2兆円、営業利益2250億円を達成することを目指す(現在は両社単純合算で売上収益1.4兆円、営業利益1600億円ほど)。

「インターネットサービスの世界で、米中勢に次ぐ第三極を作る」と打ち出す新生ZHD。利用者基盤が国内1億人を超える巨大ネット企業となるが、課題も多い。アメリカのGAFA(Google、アップル、フェイスブック、アマゾン)との競争が熾烈なのはもちろん、国内でもコマース領域などでは楽天の後塵を拝している。

集中領域でのサービス開発や大株主ソフトバンクとの連携をどのように行っていくのか。川邊・出澤両トップを直撃した。

――統合方針麻発表から1年4カ月、社会情勢や競争環境が激変しました。

川邊健太郎・Zホールディングス社長Co-CEO(以下、川邊):コロナ禍で世界が大きく変わってしまった。統合に対する思いもコロナがあって大きく変わった。僕個人としても、新たな使命感を抱くに至った。

自分たちなりにこの20数年間、インターネットの技術を使って世の中を便利にしてきたつもりだったが、非常に限定的だったと。こういう世界的な危機を迎えて、情報技術を使ってやれることがもっとたくさんあったのだと気づいた。

とくに行政、教育、医療など「対面」を重視して来た領域。エッセンシャルワーカーの方々も、もっとIT化、ロボティクス化が進んでいれば苦労が減っていただろう。われわれの働きかけが足りなかったのだと、忸怩(じくじ)たる思いを抱いた。統合を経て何か、新しいサービスやソリューションを通じて日本のDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めて行きたい。目配せしなければならない領域がものすごく広がった。

統合後の方向性がよりシャープに

出澤剛・ZホールディングスCo-CEO(以下、出澤):LINEの誕生のきっかけが東日本大震災だったというのもあり、防災などに貢献したいという思いはもともと強かった。実際、地震や台風などの災害時にはコミュニケーションインフラとして頼りにされていると感じているし、コロナ禍でもLINEを通じたコミュニケーションの量は増えている。

このコロナ禍において、これまでDXが進んでいなかった領域も変わり始めている。「やっぱり対面がいいよね」と思われていた部分も一気にそうはいかなくかった。そこがある種、諸外国との差分だったわけだが、世の中一気に「テックを取り入れないと」というふうになってきた。こうした環境変化を先日(3月1日)発表した統合後の戦略にも反映している。方向性が大きく変わったのではないが、よりシャープになったという感覚。

――もう1つの構造変化として、米中テック企業間の摩擦が急速に進んだことも挙げられます。2019年の記者会見ではGAFAとの戦いを念頭に置いた戦略も語っていましたが、この部分で考え方は変わりましたか?

川邊:TikTokはアメリカではまだ使えるけど、インドでは使えなくなったり、いろいろな断絶が進んだと実感する。普段使っていたものがある日突然使えなくなったら消費者だって困る。もともと「インターネットにもうひとつの選択肢を」とか「米中に次ぐ第三極が必要になる」という意志を持って統合を発表したわけだが、まさに今、そういった存在があってしかるべき世界情勢になっている。

川邊:「代替」と言ってしまうと志が低いけれど、自信を持っておすすめできるものを(アメリカ勢でも中国勢でもない)ニュートラルなわれわれが提供することはますます価値を増している。コロナ禍で感染者の発生状況や政府の対応方針が各国で異なる中でも、ローカルに根差したプレーヤーが力を付けることの重要性を痛感した。

――LINEは日本だけでなくアジア圏に多くの利用者を抱えています。ここでの手応えは?

出澤:海外でも、LINEやその関連サービスのアクティブ度はコロナ禍を経て格段に上がっている。外出ができない中で重宝されているのは日本と同じだ。LINEの世界地図(展開地域)はすでにほぼ決まっている。それは日本と、台湾、タイ、インドネシア。今後もここを深堀していく形でスーパーアプリを目指す。

そこでキーワードになるのが、コマース、O2O(Online to Offline)、フィンテックの3つだ。

連携すべきものがたくさんある

どの領域についても自力での成長に加えて、ZHDと一緒になったメリットは出てくるはずだ。とくにコマースに関してはZHDにさまざまなサービスや知見がある。それらをLINE側で取り込むことで成長確度を上げていけると思う。

O2Oの関連でも、例えばインドネシアなどでは今スタートアップがボコボコ生まれユニコーンも出ている。そういう会社に対し、例えばソフトバンク・ビジョン・ファンド(の投資)も絡めた形だとか、いろいろなアプローチができると思う。

――会見では共通領域の整理について、スマホ決済は統合に向け準備すること、ニュースは両サービスを別々に残すことなど、いくつかのサービスについて言及がありました。統廃合や撤退はどう判断していきますか。

川邊:最も優先順位が高いのはサービス間の連携を促進することだ。その後に統廃合も含め可能性を考えていく。いずれにしてもユーザーのほうを向いて、どういう連携をしたら便利になるのか、統廃合があるべきかを、まさに今日(3月4日)から始まった、役員陣が週に1回集って行うプロダクト委員会で議論していく。方針が決まったものからどんどん現場に伝え、サービスへの反映に向け動いてもらう。

(ヤフー、LINE合わせて)200以上のサービスがあり、その数自体は創業から25年のヤフーのほうが多い。LINEの側にはコミュニケーションから発したサービスがある程度限定的にある状態。つまり、すべてのサービスがヤフー、LINEで2セットずつあるわけではないので、統廃合すべきものより連携すべきもののほうがはるかに多いというイメージだ。

――サービス連携のシナジーは、具体的にどう創出しますか?

川邊:共通するサービス領域は、両方を使っているという人が一定数いると思う。これまでは当然、別々に最適なユーザー体験を作ってきたけど、今後はそれをシームレスに考えていくので、使い勝手がよくなるだろう。例えばポイントプログラムやクーポンの仕組みを一緒にできれば、この店ではヤフー、この店ではLINEというふうに使い分けなくて済む。

出澤:別の切り口でいうと、オペレーションの改善も行えるだろう。例えば仮定の話だが、(LINE傘下の)出前館が持っているラストワンマイル配送の仕組みで、ZHDのコマースの配送をお手伝いするといったことが可能かもしれない。1社だとコストと効果が割に合わずできていなかったこともある。そういったサービスの裏側の新しい取り組みも進めたい。

クレカや電子マネーより勝算がある

ーースマホ決済に関しては、プロダクト委員会の開催に先んじてサービス統合の方針を決めています。

出澤:ギリギリまで話し合い、発表会(3月1日月曜)の前の週の金曜日に最終結論を出した。やはりユーザー体験としてどういうものが最適かを考えた結果だ。フィンテックはわれわれの成長の柱の1つ。その入り口であるQRコード決済の整理は、ほかの領域と比べても非常に優先順位が高かった。

――ペイペイとLINEペイが一緒になれば「無敵」ですか?

川邊:いや、全然(笑)。

そもそも、日本では今も現金が強い。キャッシュレス手段の中で考えても、歴史の長いクレジットカードが強い。全然まだ頑張らないといけない。コード決済というものすごく狭い世界の中でいえば、ペイペイとLINEペイが統合することでものすごく強くなるとは思うけど。

クレカとか電子マネーと比べコード決済という手段がどうかというと、僕はけっこう勝算があると思う。強みは、安価な技術を使っているので低コストで柔軟な運営を行えること。高度で高コストな技術を使うと、結局は手数料に跳ね返る。クレカの普及が一定程度で止まっているのがそれを証明している。

――集中領域の1つとして「コマース」を挙げています。発表会で触れられたオンラインギフトやライブコマースも魅力的な新施策ですが、アマゾンや楽天を抜いてトップになるためには品ぞろえ、物流など”王道”の強化策も必要では。

川邊:王道施策の強化と別の道の開拓、両方やっていかないと(楽天やアマゾンに)追いつけない。コロナ禍ではECへの需要が爆増したが、当社より楽天のほうがその”恩恵”を強く受けた。

川邊:こういうときは純粋想起(そのカテゴリーで最初に思い浮かぶサービスであること)が重要で、例えば情報メディアとしてはヤフーが伸びた。ファッションではゾゾが伸びた。一般の買い物でもまずヤフーを想起してもらうには、地力を付ける必要がある。

ここでいう地力というのは、商品数、価格と特典、使い勝手、配送利便性などだ。商品数とお得さではかなり追いついてきた。使い勝手はつねに改善し続けるしかない。あとは物流。ここは今後強化したいし、5年で5000億円と打ち出しているAI投資にも、物流をスマートにしていくためのものを入れていくつもりだ。

それと両輪で必要なのが、競合にないサービスを生み出していくこと。せっかくLINEが仲間に入ったので、人と人とのコミュニケーションが密に行われているLINEならではのものをアドオンしていく。

それがライブコマース(ライブ配信動画で商品紹介・販売を行うサービス)、ギフト(メッセンジャーを通じてプレゼントを送れるサービス)などだ。例えばギフトの品ぞろえを、ヤフーショッピングの出店者、ペイペイの加盟店などのネットワークを使って一気に増やすこともできるだろう。

利用者のスティッキネスを上げる

――同じく集中領域にある「社会」ですが、行政や防災に関連するサービスは作り込みが大変そうな一方、あまり稼げるイメージがありません。

川邊:おっしゃる通り、防災で儲かるはずはないし、行政サービスも、それだけで大きなビジネスになるという性質のものではない。ここに取り組む目的はほぼ、利用者のスティッキネス(粘着性)を上げることにある。

例えば行政手続きを全部LINEで完結できたり、災害で困った時にヤフーでしっかりナビゲーションできたりすれば、ずっと使い続けようと思ってもらえるだろう。採算性だけで判断する領域ではない。

――今回の統合でZHDの株主となったAホールディングスの社長には、ソフトバンクの宮内謙社長が就きました。ソフトバンクとの関係性は今後どうなりますか?

川邊:自分自身、ソフトバンクの取締役を兼任しているので、統合以前から密にコミュニケーションを取っている。同社が「ビヨンド・キャリア」というミッションを掲げ目指していることの1つは、間違いなくネットサービスの拡充だ。その大部分を担うのがZHD。LINEと一緒になればできることが増えるので「ぜひとも頼むよ」と言われている。

――ドコモやKDDIは自社キャリアに顧客を囲い込むための手段としてネットサービスを拡充しています。今後ZHDの運営においてもソフトバンク色が濃くなり、ヤフーやLINEがユニバーサルなサービスとして積み上げてきた価値が低減する可能性はないでしょうか。

川邊:ソフトバンク色を出さないのは今後も重要だし、ソフトバンク側もそれをよく理解している。

すべてはスマホ決済の「ペイペイ」というネーミングに現れている。他社は「auペイ」とか「d払い」になったわけだが、うちは「ソフトバンクペイ」とか絶対やめたほうがいいと議論し、ユニバーサルな名前にした。(キャリア横断で使ってもらったほうがいいという)ネットビジネスの本質をきちんと理解している。

イシュードリブンな進め方が重要

一方で、そうは言っても誰に最初に使ってもらうの?という問題がある。例えばサービス開始時、ペイペイ利用者がゼロの時に、ペイペイ利用者の皆さんと呼びかけても誰も反応しない。だが、ソフトバンク利用者の皆さんは5%お得ですと打ち出せば、まずは数千万人の対象者に響く可能性がある。初期的なマーケティングには非常に有効なので、基本はユニバーサルでありつつも、柔軟な運用を行いたい。

――事業会社としてのヤフーやLINEは今後も存続しますが、両社の社員のコラボレーションはどのように進めて行きますか?

出澤:集中領域、根幹領域としたサービスの関係者はすでにかなり密にやり取りしている。3月1日からようやく具体的なことを話せるようになったばかりだが、いいスタートが切れている。まずはプロジェクトベースでいろいろチャレンジしながら、ベストな組織の形を模索していきたい。

川邊:プロジェクトベース、イシュー(議題)ドリブンな進め方であることが重要だと思う。コロナ前であれば、仲よくなってほしいサービス領域では両社の人材を同じフロアに配置する、部署ごと統合するなどができたけど、在宅勤務者が大半である今は物理的に場所や組織形態を変える意味がほぼない。現場のメンバー同士で日常的に会話するためのイシューを、いかに経営陣で作っていけるか。その点を重視したい。

東洋経済オンラインより転用東洋経済オンライン


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