楽天田中将大投手(32)は、8年ぶりに復帰した日本のプロ野球でどんな投球を見せるのか。メジャーに移籍した14年から、名門ヤンキースで6年連続2ケタ勝利。17年以降はデータも活用して変化を加え、投球スタイルは進化を遂げてきた。MLBのデータサイト「スタットキャスト」から7年間の投球データの変遷を分析し、田中の今後を予測した。
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コロナ禍の20年。田中将は新たな挑戦をしていた節がある。スタットキャストのデータでは、19年と比べてスプリットの落差を約10センチも減らした。にもかかわらず空振りを増やした。野球の新しい教科書的ウェブサイト「ベースボールギークス」によると、スプリットの空振り率は17・7%から21・2%まで上昇。変化を少なくして空振りを増やすには「ピッチトンネル」(注)の狭さを活用したものと推測できる。
近年、トラックマンやラプソードなどでデータを活用し、数値化が進んでいるメジャーの野球。田中将は楽天復帰の際の会見で「2017年を迎えるまでは、ざっくりとしたデータを頂いて、実際は投げながら打者がどういう反応をするかとか、どういうボールを待ってるか観察しながら投げていた」と、自身の感覚をより重視していたことを明かした。だが、4年目で転換期を迎えたという。
「17年を境に、もう少しデータを深く見てみようってなって、そういうところも重視しながら投球するようになりました」
7年間の投球データをひもとくと、まずは直球とスプリットの分布に変化が表れた。14年から16年までは両球種が重なり合うように位置し、高めボールゾーンへの直球は少なかった。しかし、17年以降から徐々に高めのストライクゾーンを外れる球が多くなり、18年、19年で顕著に。これだけはっきり表れれば、そこに投げる意図があったと考えて間違いない。17年からの3年間は、田中将が高めの直球を効果的に使った期間で、19年にはほぼ完成形となっていた。
その上での20年シーズンの取り組みが、ピッチトンネルを狭くした空振り奪取だったのだろう。21年、NPBに復帰したことで、必然的に変わってくる部分もある。例えば、上位打線と下位打線の打者のタイプやレベルがMLBとは異なる。下位打線でも強振してくるメジャーと、ファウルで粘り、軽打を狙うタイプもいる日本では、投手のアプローチの仕方も変わるだろう。ただ、20年の取り組みがうまくいけば、決め球の威力が増す分、NPBでも効果は得られるだろう。
ここまで状況に応じて投球スタイルを変え、データでは3年周期で熟成させてきた。それを踏襲するなら、20年から今季、そして来季にかけてが、次なる姿の完成形となる。高めの直球や変化の小さなスプリットなど、メジャーでの7年間で引き出しは確実に増えた。13年までの田中将とは違う投手になったと思って間違いない。今はその準備の時だ。【MLB担当=斎藤庸裕】
◆ヤンキース田中のスプリットの落差 スタットキャストによると19年は31・9インチ(約81センチ)あったものが、20年には27・9インチ(約71センチ)に。約10センチ、変化が小さくなった。
◆ピッチトンネルとは 米国の野球データ分析サイト「ベースボール・プロスペクタス」によれば、打者はホームベースから23・8フィート(約7・25メートル)前後でバットを振るか振らないかを判断しなくてはいけない。トンネルポイントと呼ばれ、この地点で直球の軌道と変化球の軌道の差がどのくらいあるか。ボールが早く曲がり始めれば、直球との軌道の差は大きくなる。その差を直径とした「穴」が狭い、つまり直球の軌道と変化球の軌道が重なれば重なるほど、打者は球種の見分けが難しくなる。この穴をピッチトンネルと呼ぶ。
日刊スポーツより転用
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