ビーチを守るサメよけネット、海洋生物の脅威に 南アフリカ
- 国際
- 2021年2月18日
【AFP=時事】「つまり、これは死のカーテンです」。サメツアーのダイバー、ウォルター・ベルナルディス(Walter Bernardis)さんはゴムボートから手を伸ばし、ネットの上部を引き上げながら語った。ここは南アフリカ東方沖の亜熱帯の海である。
網の長さは、200メートル。ヤシの木が茂るビーチの海水浴客をサメの襲撃から守るために張ってある。
しかし自然保護活動家たちは、このネットがサメだけでなくイルカやジュゴン、ウミガメ、クジラなど、水際に近づこうとするすべての大型動物を捕獲してしまうと主張する。
「水中に仕掛けておくシステムです。ネットに首を突っ込んだものはすべて死んでしまう」とベルナルディスさん。元教師の彼は、観光客をサメと対面させ、この魚についての誤解を解こうとしている。
サメは1950年代に悪名をとどろかせた。今では毎年600万人以上が訪れるクワズール・ナタール(KwaZulu-Natal)州では、サメに襲われて命を落とす人が相次ぎ、白砂のビーチから人影が消えた。
1975年のスティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)監督の映画『ジョーズ』は、サメを人食い動物として描き恐怖心をあおった。焦った州観光業界は、サメよけ対策に乗り出した。
同州の大都市ダーバン(Durban)の南北300キロ以上にわたって点在する37か所のビーチには現在、ネットおよび「ドラムライン」と呼ばれるブイから餌付きのフックを垂らした仕掛けが設置されている。
■保護種にも影響
州の公的機関であるサメ委員会によると、サメよけによる保護区域内で、サメに襲われ人が死亡したという報告は67年以上ない。
統計を見ると、サメはめったに人間を襲わない。米フロリダ大学(University of Florida)の集計によると、2019年に世界中で報告されたサメの襲撃は100件程度だ。獲物は小魚やアザラシ、イカなどが中心で、通常、人間は含まれない。
数百種いるサメのうち人間にとって脅威となるのは、オオメジロザメやイタチザメなど5種だけだ。
州のサメ委員会によると、ネットや餌付きフックに引っかかり、毎年少なくとも400匹のサメが窒息死している。そのうち約50匹は、ホホジロザメやシュモクザメなどワシントン条約(CITES)で保護されている種だ。
■ 「誤った」安心感
サメよけを支持する州サメ委員会によると、2019年は690匹の海洋生物がかかったが、多くは生きたままリリースしている。
サメツアーのダイバーで案内人のゲイリー・スノッドグラス(Gary Snodgrass)さんは数年前、各種ツアーのうち「イタチザメ・ダイブ」と銘打っていたツアーの名前を変更した。「今ではイタチザメをめったに見ない。数が劇的に減っている」からだ。
世界のサメは、生息地の破壊、乱獲、そして高利益のフカヒレ売買により脅威にさらされている。
2013年に発表された科学調査の結果によると、人間は年間推定1億匹のサメを殺している。現在は8種のサメがワシントン条約で保護されている。
恐ろしい顎や鋭い歯ばかりが連想され、疎まれるサメだが、科学者や環境保護活動家らは、サメは生態系にとって重要であり、海洋生物の個体数の調整に欠かせないと強調する。
サメよけフェンスはさほど有効ではないとの指摘もある。ダイバーらは、ほとんどの動物が上下わずか6メートルの網の下をくぐることができるのを知っている。その上、網にかかるのは、海岸の近くから戻るときが多い。
ネットやドラムラインは海水浴客に「誤った」安心感を与える面もあるが、「サメは危険だが保護すべき」というメッセージでもあると話すのは、南アフリカの環境保護団体「ワイルドオーシャンズ(Wild Oceans)」の代表ジーン・ハリス(Jean Harris)さん。
海水浴客を守るためにサメを殺すというのは、古い考え方だとハリスさんは言う。「人々の意識こそ変えなければいけない」
【翻訳編集】AFPBB News
コメントする