「ANA・JAL統合論」に両社大反対、そもそも独禁法に触れないのか?
- 政治・経済
- 2021年1月18日
『週刊ダイヤモンド』1月23日号の第1特集は「航空・鉄道 最終シナリオ」です。ANAホールディングス、日本航空、そしてJRや私鉄各社はコロナ禍の直撃を受けて大赤字に陥っています。コロナ禍の非常事態を乗り越えても、旅客ビジネスはもう元には戻りません。では各社はどう動けばいいのか。すでに崩壊の危機にある地方交通を守りたい自治体はどうすればいいのか。この世界で働く社員たちの内実とは?航空・鉄道の「最終シナリオ」に迫ります。
政権ブレーンが唱える
国際線一本化
「一度経営に失敗した日本航空(JAL)は国内線に特化し、国際線はANAホールディングス(HD)1社に統合するというのが再編の在り方だと思います。国際線と国内線を接続する必要があるので、ANAHDは国内線もやる。こうしたことをよくよく考えて健全な競争ができるようにルールを作る必要があります」
菅義偉首相のブレーンである竹中平蔵氏は、2020年にダイヤモンド編集部のインタビューで両社の国際線を一本化する「ANA・JAL統合論」を唱えた。
竹中氏は菅政権が設置した成長戦略会議に有識者メンバーとして参加している。同会議がまとめた「実行計画」には、産業を強くするための競争政策を議論する場をつくることが盛り込まれている。
競争政策のルールを作ったり再生を行ったりする対象としたい産業として竹中氏が挙げるのが「当面は携帯電話、電力、銀行、そして公共交通」。航空会社がターゲットに入っているのだ。
竹中氏に言わせれば、「10年前、民主党政権は公平性のある競争政策や産業強化の観点がないまま、JALに対して変な救済をやった。つまり今のJALはげたを履いており、極めてアンフェアな状況にある」「あのとき政府がちゃんとしていれば、JALは国内線とせいぜい近郊の国際線に絞り込みが行われ、ANAに国際線のほとんどを集約してアジアの中で勝てる国際的な航空会社をつくるという政策になったはず」という。
「日本政府が航空会社に公的支援を行うときに最も大切なのは、企業を守るのではなく、どうしたら産業を強くできるかを考えるということ」と竹中氏。「健全な競争政策と産業再生の両方の観点を絡めて議論していかないと、本当の意味での強い企業と産業は育っていかない」と主張するのだ。
この統合論に当のANAグループやJALの社員・幹部はそろって「絶対にならない。したくない」「組織が一つになったところで、人心もカルチャーも溶け合うのは無理」と拒絶感をあらわにした。
両社のライバル意識はそれほどまでに強い。
航空会社の監督官庁である国土交通省の官僚は「自力で生き抜こうとしている段階で国が口を出すことはない」「空港使用料や航空機燃料税を減免する。それが今の現実的な支援」とけん制する。
そもそもである。ANAHDとJALという国内2強の国際線統合は、独占禁止法に抵触しないのだろうか。
独禁法において
「国際線統合はできる」
航空会社の経営統合に伴う独禁法対応を複数担当してきた米ベーカー&マッケンジー法律事務所の井上朗弁護士によると、独禁法において「両社の国際線事業の統合はできる」。
具体的には「国際線という大きなくくりではなく、路線ごとに市場を独占しないかを判断していくことになる。基本的に路線の売り上げシェアで5割を占めていなければ問題ない。5割以上を占めている路線があっても超過分の発着枠を放棄すればクリアできる。審査は日本と路線を結ぶ国の双方の当局で受けることになる」という。
ただし、法律の枠外で「相手国と政治的な交渉が必要でやりにくいケースもある」と指摘する航空会社幹部もいる。
また、両社で5割以上のシェアを持つ国内線事業の統合についても「国が統合しようと判断するなら、独禁法の適用から除外するという特別法を国会で通すことで可能にすることはできる」と井上弁護士は言う。大事なのは政策ということだ。
新型コロナウイルスの感染拡大により、政府は年明けに緊急事態宣言を再び発令した。航空会社はさらなる地獄へ突き落とされている。現段階でANAHD、JALに統合の意思がなければ、強制できる者はいない。しかし、もし事態が変わったときに最適解に導けるように議論しておくタイミングではある。それほどに航空産業の今は厳しい。
ダイヤモンドオンラインより転用
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