焦点:「鉄のカーテン」再びか、ドル圏から締め出し恐れる中国
- 国際
- 2020年8月18日
8月13日、中国国内では、米国との関係が急激に緊張する中で、「金融戦争」の行き着く先としてドルを中心とする国際通貨システムから中国が締め出される恐れがあるとの不安が高まりつつある。写真は米ドルと中国人民元の紙幣2月撮影(2020年 ロイター/Dado Ruvic)
[北京/上海 13日 ロイター] – 中国国内では、米国との関係が急激に緊張する中で、「金融戦争」の行き着く先としてドルを中心とする国際通貨システムから中国が締め出される恐れがあるとの不安が高まりつつある。かつてはまさかと思われていた破局的な展開が、現実味を帯びてきたと受け止められている。
中国がドル決済の枠組みから遮断されたり、米政府が中国の膨大なドル建て資産の一部を凍結ないし差し押さえたりするような最悪シナリオが、中国の当局者やエコノミストの間でここ数カ月、公然と論じられるという異例の光景が見られるようになった。
こうした懸念を背景に、中国製の新型コロナウイルスワクチンを輸出する際には人民元建て決済を採用する構想が浮上し、デジタル人民元を使ってドル決済を迂回することも検討され始めている。
スタンダード・チャータード銀行(スタンチャート)の広域中華圏経済調査責任者で、中国人民銀行(中央銀行)エコノミストだったシュアン・ディン氏は「人民元の国際化は以前なら『あれば好都合』だったが、もはや必要不可欠になろうとしている」と語り、米中間の金融デカップリング(分断)の脅威は「明白かつ今そこにある」と指摘した。
経済規模で世界第1位の米国と第2位の中国が完全にたもとを分かつ事態が起きる公算は乏しいとはいえ、トランプ政権は貿易やハイテク、金融業務などに絡む重要分野で部分的なデカップリングを推進し続けている。その一環として、米国の会計基準を満たさない中国企業の上場を禁止する提案や、動画投稿のTikTok(ティックトック)やメッセージを交換する微信(ウィーチャット)といった中国のアプリ使用禁止の方針などを打ち出した。11月3日の米大統領選に向け、両国の関係はさらに緊迫化する見通しだ。
中国政府系シンクタンク、中国社会科学院のエコノミストで以前、人民銀のアドバイザーだったユー・ヨンディン氏はロイターに「広範な金融戦争はもう始まっている。(だが)最も致命的な手段はまだ使われていない」と話す。
ユー氏は、米国が発動する究極の制裁は中国が保有するドル建て資産の接収になるとみている。中国政府は1兆元超相当の米国債を持っており、実際に接収するのは難しいし、米政府にとって自滅行為にもなる。それでもユー氏は、現在の米国の指導層を「過激主義者たち」と定義し、デカップリングの可能性は排除できない以上、中国は備えを固める必要があると訴えた。
<市場に甚大な影響>
実現した場合の影響は甚大だ。米政府が中国をドル体制から排除し、その報復として中国が大量の米国債を売却すれば、金融市場が大混乱して世界経済が痛手を受けかねない、とアナリストは警戒する。
中国証券規制当局幹部のファン・ジンガイ氏は、中国は米国の制裁に対して脆弱であり、「早期」かつ「現実的」な準備を整えるべきだと主張。6月に独立系メディアの財新が主催したフォーラムでは、既に多くのロシアの企業や金融機関が米国の制裁に対するもろさを露呈していると説明した。
BOCインターナショナル(中銀国際)のチーフ・グローバル・エコノミストで、以前に中国国家外為管理局の国際決済局長を務めていたグアン・タオ氏も、中国政府がデカップリングに身構えておくべきだと提言し、米国が中国をドル決済システムから追い出す可能性があるとの心づもりが必要だとロイターに明かした。
またグアン氏は先月共同執筆したリポートで、国際貿易において人民元の国際銀行間決済システム(CIPS)の利用拡大を図ることを提唱した。中国が行う国際貿易は現在、ほとんどドル決済方式のSWIFT(国際銀行間通信協会)を経由しており、中国国内の一部から、いざという場合に苦境に立ってしまうとの声が出ている。
<核オプション>
こうした情勢を踏まえ、中国政府は過去5年間停滞させていた人民元国際化の取り組みを再び強化している。 人民銀行の上海事務所は先月、金融機関に人民元建て取引を拡大し、直接投資でローカル通貨を優先使用するよう促した。
9日には人民銀の易綱総裁が人民元国際化が順調に進み、今年上期の国際間決済額が前年同期比36.7%増加したと発言したことが公表された。易綱氏によると、第1・四半期の世界の外貨準備に占める人民元の比率は2%を突破。SWIFTのデータを見ると、6月には国際間決済で人民元がスイスフランを抜いて利用順位で世界第5位に上がった。
ただ人民元国際化は、中国自らが導入した厳しい資本規制が足かせになっている。さらに新型コロナへの対応や香港問題などで中国に批判的な諸国の抵抗に直面してもおかしくない。
OCBC銀行の広域中華圏調査責任者トミー・ジー氏は、国際間決済を拡大する1つの方法として、新型コロナワクチンなど中国が輸出する一部の品目を人民元建てで価格設定することを挙げた。
上海財経大学のディン・ジャンピン教授は、中銀間の通貨スワップを背景にデジタル人民元での決済を提案し、SWIFTのようなシステムを経由しないというやり方もあると指摘する。
スタンチャートのディン氏は、中国政府としては米国がドル体制から中国を追い出すという「核オプション」に備える以外、選択の余地はないと分析。「実際に制裁が降りかかってきた際に、そのまま混乱に身を投じる余裕など中国にはない」と強調した。
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