新型コロナで身売り相次ぐホテル業界 買収も活発で再編が加速
- 企業・経済
- 2020年5月22日
経営破綻したWBFホテル&リゾーツが大阪で展開していたホテル=大阪市浪速区
新型コロナウイルスの感染拡大の影響に苦しむ宿泊業界で、事業や施設を売却する動きが加速している。M&A(企業の合併・買収)仲介サイトでは、半年前と比べ民泊施設の月間あたりの売却依頼が4倍に急増した。その一方で、新型コロナ収束後の需要回復をにらみ、買収を活発化させる動きも出始めている。(田村慶子) ■わずか1千万円で売却 「大阪駅から徒歩圏内 ゲストハウス(簡易宿所)事業譲渡」 「博多駅徒歩5分の民泊運営権譲渡」 事業承継支援のトランビ(東京都港区)が運営するM&A仲介サイトには、全国各地の民泊やホテルから、事業や施設の買い手を募る情報がずらりと並ぶ。 「希望通りの価格で運営権が売れてよかった」。大阪市や沖縄県などで7軒の宿泊施設を経営する30代の男性は3月、大阪市内のゲストハウスを1千万円で売却した。 このゲストハウスは4千万円の改装費を投じ、約4年前に開業。インバウンド(訪日外国人客)増加の波にのり、アジアを中心に幅広く宿泊者を呼び込んだ。繁忙月には、通常月の4倍ほどの利益もあげた。 だが、急増する民泊との競争激化や日韓関係悪化による韓国人客の減少が影を落としていたところに、新型コロナの感染拡大が追い打ちをかけた。約75%を維持していた客室稼働率は2月から落ち始め、3月には20%に。「客がゼロの日も続いていた」。一部の従業員解雇にも追い込まれた。 男性はもう1軒の売却も模索している。「家賃負担が重い。先が見通せず、今は経営リスクを減らすことしかできない」と話す。 ■経営破綻、宿泊業が最多 トランビによると、4月末時点でサイトに登録されている売却依頼件数は、民泊だけで昨年秋に比べ約4倍。他にホテルや旅館、簡易宿所も多く、新型コロナの感染拡大による経営悪化を理由とした案件が目立つという。 民間信用調査会社の東京商工リサーチによると、5月12日時点の新型コロナに関連した全国の経営破綻139社のうち、宿泊業は30社と業種別で最多。首都圏や京都などにカプセルホテルを展開していたファーストキャビン(東京都千代田区)は4月24日付で東京地裁に破産申請。さらに同27日付でWBFホテル&リゾーツ(大阪市北区)も、大阪地裁に民事再生法の適用を申請した。 近年のホテル建設ラッシュや民泊の急増による競争激化で経営体力を奪われていたところに、新型コロナがとどめの一撃となった。 ■「出店拡大のチャンス」 かつての活況から潮目が変わった宿泊業界。その一方で、現在の状況を好機ととらえる企業もある。 東京都内のあるホテル運営会社は4月、沖縄県の会社から都内のホテル3軒の運営権を買い取った。「いまでこそ稼働は厳しいが、インバウンドが戻った時の受け皿は必要になってくる」。新型コロナ収束後の需要回復を見込んだ戦略だ。WBFホテル&リゾーツにも、再建支援のスポンサーとしてすでに複数の企業が名乗りを上げている。 各社が投資を手控えたリーマン・ショック直後に投資を活発化させ、事業を拡大していった「逆張り」戦略で知られるアパグループの元谷外志雄代表も、現在のホテル市場を「M&Aによる出店拡大のチャンス」と語る。 不動産サービス大手CBRE(東京都千代田区)のホテル部門責任者の土屋潔氏は「ホテル市場は必ず需要が戻る」とし、それを見越した開発や投資に前向きな事業者が増えるとみる。「現時点でも不動産業者のホテルへの投資の関心は高く、価格が合えば売買は実現する」と、業界再編を予測する。 4月30日に成立した令和2年度補正予算では、新型コロナ対策の一環として、事業再編を支援する関連予算も盛り込まれた。M&Aをバックアップする官民連携の新たなファンドも創設するなど、新型コロナを契機に各業界の再編を後押しする。新型コロナの影響を最も受けている宿泊業界でM&Aがさらに加速しそうだ。
一言コメント
M&Aは鼻息荒いね。
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