ゴーン被告逮捕1年 来春にも初公判、全面対決へ
- 事件・事故
- 2019年11月18日
日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告(65)が東京地検特捜部に逮捕されてから19日で1年となる。現在は早ければ来春にも始まる裁判に向け、争点を絞り込む公判前整理手続きが月1回程度、開かれている。弁護側は無罪を争う以前に、捜査は違法だとして起訴を取り消す公訴棄却を求めるが、有罪立証に自信を深める検察側からは「意味のない場外戦」との声もあがる。
■ほぼ毎日事務所、裁判準備に専念
「非常に厳しい保釈条件に耐え、裁判に向け、それなりに元気に活動している」。東京都内で11日、記者会見した弁護団の弘中惇一郎弁護士はゴーン被告の近況をこう説明した。4月に保釈された後、保釈条件に従い、監視カメラ付きの都内の住宅で暮らすゴーン被告。平日はほぼ毎日、弘中氏の事務所へ足を運び、裁判資料を読んだり、弁護団と議論したりして裁判準備に専念している。
娘と京都旅行を楽しむこともあったが、事件関係者とされる妻、キャロルさんとの接触は原則禁止され、ゴーン被告は強い不満を抱いているという。弁護側は東京地裁に保釈の条件変更などを繰り返し求めたが、面会は実現していない。
公判前整理手続きは月1回ペースで開かれ、ゴーン被告本人も毎回出席。6月には記者会見も一時検討したが、現在は「裁判をどう闘うかに関心があり、メディアに話すことは考えていない」(弘中氏)という。
■検察側、弁護側双方主張に自信
一連の捜査は昨春から行われた日産の内部調査を機に始まり、着手前に日産幹部2人が特捜部との司法取引に応じたことで進展した。こうした経緯を弁護側は厳しく批判する。仏自動車大手ルノーとの統合を恐れ、ゴーン被告を追放しようとした日産側の意向があったとして、「2人は会社の『業務命令』に従ったに過ぎず法の趣旨に反する」と主張。さらに捜査権が及ばない海外で日産による違法な証拠収集が行われたとして、公訴棄却を求める。
弘中氏は「ゴーンさんとは長い間、刑務所で過ごすことになるかもしれないという話をしたことはない」と自信を見せている。
検察側も強気の姿勢を崩さない。ある検察幹部は「違法捜査をしているわけがない。事件の本筋ではない場外戦に持ち込むしか手がないのだろう」と冷ややかだ。
検察側は、ゴーン被告が自身の報酬を有価証券報告書に過少記載したとする金融商品取引法違反事件について、高額報酬批判を避けるため記載しなかった分を退任後に受け取ろうとしたと主張。これに対し弁護側は、検察側が言う報酬額は退任後に新たな契約を結ぶための資料だとし「未払い報酬があると思っていた人は社内に誰もいなかった」と反論する。だが別の検察幹部は「もらうつもりがないのに1円単位で決めていたのか」と疑問を呈す。
日産資金を不正に支出したとされる会社法違反(特別背任)事件については、弁護側は社内の適正な手続きによる正当な支出で、ゴーン被告自身や家族に還流した事実はないと訴える。一方の検察幹部は「還流していないと主張しているのに、その根拠が何もない」と指摘。日産関係者も「弁護側の言う適正な手続きはなく、ゴーン被告が勝手に決めていた」と証言する。
■地裁は週3日の集中審理提案
双方の対立が先鋭化する中、東京地裁は司法取引に応じた日産幹部2人について、供述の信用性を慎重に見極める姿勢を示している。下津健司裁判長は起訴内容を認める法人としての日産と、全面否認するゴーン被告らを同時審理し、当事者が1人でも同意しない供述調書は証拠採用しない方針。司法取引した2人は証人出廷するのが確実。下津裁判長は「認否が分かれる中では証言の信用性をどう判断するかが、とても重要」と発言したという。
地裁は来年4月21日に金商法違反事件の初公判を開き、その後週3日、隔週で集中的に審理を進める日程案を示すが、実際に決まるかは不透明だ。
■ゴーン被告の起訴内容
カルロス・ゴーン被告をめぐる一連の事件で、東京地検特捜部は金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)と会社法違反(特別背任)の罪でゴーン被告を起訴した。
金商法違反罪は、平成22~29年度の自身の役員報酬を計約91億円過少に記載したとしている。元代表取締役のグレゴリー・ケリー被告(63)と、法人としての日産も起訴された。
特別背任罪は2件あり、一つは私的投資で生じた約18億5千万円の評価損を日産に付け替えた上、損失の信用保証に協力したサウジアラビアの友人側に約12億8400万円を日産子会社から送金させたとされるサウジアラビア・ルート。
もう一つはオマーンの販売代理店に計約11億1千万円を支出させ、うち約5億5500万円を実質保有するレバノンの投資会社に送金させたとされるオマーン・ルート。
裁判も長期化する!?
コメントする