<佐賀豪雨>資金あてなく、補償も「足らん」 生活再建足取り重く 油流出被害の大町町
- 事件・事故
- 2019年10月28日
佐賀県内を襲った記録的大雨で広範囲が浸水、佐賀鉄工所からの油流出被害にも見舞われた杵島郡大町町。28日で被災して2カ月を迎えた。特に油被害を受けた住民の生活再建の足取りは重く、鉄工所からは被害住宅への補償内容が提示されたものの、復旧資金や大工のあてがなく、先行きが見通せない住民は少なくない。さらに事業者の補償については提示のめどが立っておらず、年度内の事業再開を諦める声も聞かれる。
「床を拭いても油がしみ出る。大工も忙しそうだし、正月までに元通りの生活を送るのは厳しかね」。下潟地区に住む岸川喜八さん(83)は、畳をはがして床材がむき出しのままになった室内を見つめ淡々と話した。再建の見積もりを取った段階だが、2カ月が経過した現在でも住宅改修はできていない。
町が20日までに把握した鉄工所からの油流出の被害住宅は207軒。被災者生活再建支援法に基づく支援金支給対象となる「全壊」と「大規模半壊」は全体の7割を占める。築100年以上の岸川さんの自宅は罹(り)災(さい)証明で「全壊」の指定を受け、国や県、鉄工所などの補償も提示された。ただ、再建に向けては「正直、全然足らん」と嘆く。
岸川さんは妻・セイコさん(82)と二人暮らし。被災前は1階で生活していたが、油混じりの雨水が流れ込んだため、被災後は2階に寝室を移した。セイコさんは「毎日の階段の上り下りが大変」と口にする。家具や衣類などはほとんど処分した。それでも「母の形見のキリのたんすは捨てれんでね」。工事を待つ1階には、たんすがぽつんと残されている。
同じ地区の別の女性は、床材の張り替えなどの工事を進めている。自宅の約半分は床材がむき出しになったままで、「年内に元通りの生活に戻すことは無理だと思う」と話す。それでも「起きてしまった災害は仕方がない。復興に向けて頑張るだけ」と前を向く。
商工業や畜産業でも影響が出ている。養鶏業を営む牛島浩さん(56)は「再建にかかる費用を考えると、ここで再開することは厳しい」と話す。1985年ごろから事業を手がけてきたが、今回の豪雨被害で約2千羽の鶏は処分せざるを得なかった。鉄工所は、農家や商工業向けの補償について「これから検討していく」としているが、牛島さんは「長引きそうだから」と施設の解体を決めた。
順天堂病院の近くに住み、板金業を営む山中敏光さん(69)も事業を再開できずにいる。鉄板を加工する機械があった作業場が浸水し、機械やモーターにも油が染み込んだ。作業場と隣接する自宅は「全壊」の判定で補償は受けられる見込みだが、作業場については見通せない。収入はなくなったままで、「来年の春頃までに再開できれば」と希望と焦りが入り交じったような表情で語った。
一言コメント
事業者へのダメージも大きいようだ。
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