油膜に覆われ「田んぼ全滅」肩落とす農家 九州北部大雨
- 事件・事故
- 2019年8月31日
油を含んだ濁った水は、実りを控えた水田も覆い尽くした。記録的な大雨から2日たった30日、鉄工所から油が流出した佐賀県大町町では、水が引いた後も一帯に黒い油の跡が残る。米農家、岸川マサノさん(73)の水田も油膜に覆われた。この日、大雨後初めて自宅に戻って片付けに追われたが「田んぼは全滅」と肩を落とした。
農家の2代目だった夫隆昭さんと21歳で結婚。夫婦で農作業に精を出し、毎年約9トンの米を収穫するまでに出荷量を増やした。しかし、昨年9月、77歳だった隆昭さんが急逝。1人暮らしとなった。今月31日に予定していた一周忌は大雨で延期を余儀なくされた。
「怖いくらいの雨だった」。27日夜は夜中に何度も目が覚めた。家の中が浸水し、2階に避難した。腰の高さまで水位が上がった28日昼過ぎ、町のボートに救助され、近くの高台で暮らす息子家族の家へ避難した。
隆昭さんと手をかけた約20ヘクタールの水田は、油混じりの濁った水に囲まれた順天堂病院そばに点在。見に行きたくても行けなかった。水位が下がった30日、自宅に戻ると、農家仲間に「岸川さんの田んぼも油膜が張っていた」と言われた。「一面に油膜が張っていれば絶対に食べられない」。肩を落とした。
JA佐賀中央会によると、県内で冠水被害を受けた水田は29日現在、確認されただけで5018ヘクタール。稲などの作物が水につかると酸欠状態となり、成長が阻害されるという。一方で、油が作物や土に付着すると収穫できなくなる恐れがある。自衛隊などが吸着マットを水田にまいて油を除去しながら排水作業を進めるが、思うように排水が進んでいない。
同会は「油が作物に付着すれば、収穫せずに刈り取る処置をしなくてはいけない可能性があるが、どのぐらい被害があるのかが見通せない」とする。
6月に田植えをし、穂が実るのを心待ちにしていた岸川さん。しかし、農機具倉庫は約1・3メートル浸水し、隆昭さんと一緒に使ったトラクターやコンバインなどの農機具は使えなくなった。自宅の中も油臭が広がり、仏壇も水浸しになっていた。「いつ米作りが再開できるのか」。不安を何とかかき消そうと、自宅の後片付け作業を続けた。
一言コメント
収穫前の全滅はあんまりだ。
コメントする