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自分の預金が下ろせない?じわり広がる“高齢者制限”


 金融機関が高齢者の取引を見直す動きが急速に進んでいる。特殊詐欺の防止などから、一定年齢になると、預金の引き出しを制限したり、使途の詳しい説明を求めたりするケースが増えている。早ければ60代から「自分のお金が自由に使えない」状況も生まれている。【毎日新聞経済プレミア・渡辺精一】

◇「70歳以上」個人として認めない?

「契約には代理人も同伴ください」。「ひとりの生き方」をテーマとするノンフィクション作家の松原惇子さん(72)は、銀行で貸金庫利用を申し込んだところ、行員からこう対応された経験を5月、ネットメディアでつづった。「銀行は70歳以上は個人として認めないのか」と問題提起した。

金融機関では、一定年齢以上の顧客を対象に一律の対応ルールを設けるところが増えている。目安は「70歳以上」。ほとんどの場合、ルールは公表していないが、ある大手銀行は「支店にもよるが、70歳以上の契約には代理人同伴が原則」という。

「何度説明しても理解してもらえない」「通帳をなくしたと何度も来店する」。金融機関の支店では現在、認知症で判断能力が低下したと思われる客への対応が大きな負担となっている。高齢客や家族とのトラブルも増えており、ルールはその予防策だ。

ただし、自立的に財産管理したいという元気なシニアや「子に頼りたくない」という人にとっては「高齢者を差別している」とも映りやすい。

◇現金にこだわれば警察通報

特殊詐欺の被害を防ぐため、多くの金融機関は数年前から、現金自動受払機(ATM)でカードを利用する振り込みについて、高齢者を対象に1日当たりの上限を低く設定している。2017年ごろから、これに加え、ATM出金額を制限する動きも進んでいる。

りそな銀行と埼玉りそな銀行は19年1月、18年10月末時点で70歳以上の人について1日あたりの出金・振り込みを10万円に制限。京都中央信金など信金では出金ができないところもある。

こうした制限はATMを過去一定期間(主に1~3年以上)利用していない人に限ることがほとんどで、手続きすれば上限額を変えることはできる。だが「普段の生活費はA銀行、大口預金はB銀行」など分散管理する人は多い。家族の緊急入院などの事情でまとまった現金を引き出そうと、普段は利用していないB銀行に行ったが「カードで下ろせなかった」というケースもある。

窓口での取引も制限されてきた。先駆けは、静岡県警と金融機関が連携して13年12月に始めた防犯策。75歳以上の人が300万円以上の引き出しを求めた場合、振り込みや預金小切手(預手=よて)の利用を勧め、それでも客が現金にこだわった場合は警察に通報し、駆けつけた警官が目的を聞く。預手とは金融機関が振り出し、本支店で本人確認のうえ換金する支払い手段だ。

この防犯策は詐欺被害を水際で防ぐ効果が高いと注目され「預手プラン」という名で全国に広がった。適用条件は地域性から独自に決めており「65歳以上・200万円以上」(福島県)など厳しくしたところもある。

地域の警察署が地元金融機関と独自に提携する例もある。千葉県警浦安署は60歳以上の人が、大阪府警富田林署は65歳以上の人が、それぞれ100万円以上引き出す場合は警察への通報を求める。

◇「銀行ハラスメント」国会でも指摘

普通預金は本来、預金者の求めがあれば直ちに払い戻さなくてはいけないが、犯罪防止のため、一定の制限を課すことは、法律で認められている。だが「自分のお金なのに自由に引き出せない」「個人の金融行為になぜ警察が介入するのか」という反発から、トラブルになることもある。

「銀行のハラスメントだ」。立憲民主党の末松義規・衆院議員は18年12月の衆院財務金融委員会で、金融機関の高齢者対応を問題視した。知人や家族が自分の預金を下ろそうとしたところ、警察に通報され、警官に取り囲まれたなどの事例を複数挙げ「真面目で健全な一般預金者の保護を」とただした。金融庁は「過度に画一的な対応をとり、迷惑をかけたり不愉快な思いをさせたりすることはあってはならない」とし、麻生太郎金融担当相は検討を示唆した。

金融庁の金融審議会市場ワーキンググループが6月に公表した報告書は、「2000万円不足」ばかりに注目が集まってしまったが、その柱の一つは大認知症時代への対応にあった。報告書は、金融機関の高齢者対応について「個々人に応じたきめ細やかな対応が望ましい」とする。だが逆に「一定年齢以上の人は一律対応」がじわじわ浸透している。

特殊詐欺被害は深刻化しており、認知症の人への対応も大きな課題だ。今後も金融機関の高齢者対応は厳格化が進む可能性は高い。老後の資産管理を考えるうえでは、こうした点も念頭に置く必要がある。

毎日新聞

 

 

一言コメント
おちおち年も取っていられない。


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