「夫婦二人になると話題がなくなる」…夫の定年後に妻のストレスが増す理由
- 政治・経済
- 2019年6月16日
更年期は、子供たちが成長して家を出ていく時期と重なります。お子さんのいないご夫婦にとっても、仕事重視の生活から、少し余裕のある生活に変わる時期でもあります。前回は、「夫婦間のコミュニケーションが重要だ」とお話ししましたが、更年期を迎えた夫婦たちは、実際、何について話しているのでしょうか?
お子さんがおられる家では、多くの会話が子育てに関することでしょう。小さい頃は、「どちらが保育園に送っていくのか?」「迎えは誰がするのか?」など毎日のことに加え、「参観日は誰が行くのか?」「誕生日のお祝いは何にしよう」といった会話がほとんどでしょう。たまには仕事や親せき付き合いの話題などもあると思いますが、おおむね子供に関することが多かったのではないでしょうか? そのため、子供が独立していくにつれ、話題は減ってしまいます。
大学入学や就職を機に、子供の世話は一段落。かつてなら、その後も結婚の話で盛り上がり、孫が生まれ、家族の話題が尽きることはなかったでしょう。
ところが最近は、結婚する年齢が上昇し、結婚しない人も増えていますので、家族の話題が増えることはあまり期待できません。そう考えれば、夫婦二人になると話すことがなくなるのは、当たり前のことかもしれません。
お子さんのいない夫婦の場合は、そうした落差に直面することはないと思いますが、「どのような話題について、おしゃべりしているのか?」と考えると、私にはうまく想像できません。たぶん、趣味や嗜好(しこう)が似ているのかもしれませんし、お互いに自由度が高いので、友だち付き合いなどが話題の中心となるのかもしれません。しかし、私が更年期の方たちを診療してきた経験から言えば、子供がいるいないにかかわらず、多くの場合、長年連れ添った夫婦に豊富な話題があるとは思えません。
「定年後は、夫婦仲良く旅行を楽しみましょう!」的な宣伝をよく見かけます。実際、退職後に奥さんと旅行に行きたいと考える男性はかなり多いようです。しかし、女性はそれほどでもないようです。
夫と一緒に旅行をしても、会話は弾まないし、楽しくないのでしょう。特に、妻に生活を依存している夫と旅行しても、それは「日常生活の延長」なので、くつろぐことはできません。
例えば、夫婦二人で旅行に行ったのはいいが、夫はスタンプラリーのように観光地を巡って、一か所でゆっくりできない……という話を聞きます。移動中も食事中もほとんど会話がなく、口を開けば、「切符買ってきて」とか「ちょっと聞いてきて」とか、妻を召使いのように扱う。これでは、夫と旅行するのが嫌になるのも納得できます。
最近では、女性限定の一人旅のツアーが人気のようです。参加者同士、ある程度の人数で行動しますが、女性の場合は、初対面の人でも気楽に話せる人が多いので、すぐにお友達になるのでしょうね。
これに対し、男性の場合は、仕事の相手とは名刺交換などをしてから会話が始まりますが、定年後に名刺や肩書がなくなると、途端に会話のきっかけを失ってしまいます。気楽な仲間を作るのが苦手なのです。
生活の自立もできない、会話する仲間もいない熟年期の男性には、妻の存在がますます重要となっていくのですが、妻にとっては「大きなお荷物」になります。毎度毎度の食事や身支度まで依存されている妻は、ストレスがたまり、やがて心身の不調を訴えるようになります。
このように、定年前後の夫から強く依存され、そのストレスで体調を崩した女性を、私はたくさん診察してきました。それらをまとめ、「夫源病」と命名して発表しました。この場合、妻の治療と並行し、夫に生活自立してもらうことが重要です。妻が自由に外出できるようになると、症状は治まるようです。次回は、生活自立の中でも特に大切な「食の自立」についてお話ししましょう。
内科・循環器・性機能専門医。大阪大学人間科学研究科未来共創センター招へい教授。大阪市内と都内で男性更年期外来を担当。主な著書に『夫源病』(大阪大学出版会)、『男のええ加減料理』(講談社)、『なぜ妻は、夫のやることなすこと気に食わないのか エイリアン妻と共生するための15の戦略』(幻冬舎新書)など。自転車による発電に取り組む「日本原始力発電所協会」代表を務め、男性向けの「ええかげん料理」の教室を各地で開くほか、孫育てに疲れた高齢者がネットで集う「孫育のグチ帳」を開設するなど多彩な活動をしている。ホームページは「男性更年期 夫源病 石蔵文信」
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ごもっともなことかもしれない。
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