外国人患者が増加の医療 現場が対応に苦慮
- 政治・経済
- 2019年5月6日
訪日外国人の増加を背景に、日本の医療機関で外国人患者が在留期間を延ばそうと無理な書類作成を依頼したり、診療費を支払わなかったりするトラブルが相次ぎ、現場が対応に苦慮している。外国人労働者の受け入れ拡大を狙う改正入管法の4月施行でさらに外国人患者の増加が予想される中、NPOによる医療事務の人材育成の試みも始まった。
今年2月、福岡市博多区の原三信病院の一室で、医師や医療事務職員らが打ち合わせに臨んでいた。日本語と英語を併記した検査同意書の文面に目を落としながら、どうすれば分かりやすいかと知恵を出し合う。同病院事務部の加藤宗一郎さんは「医療側も患者側も安心できる環境にしたい」と話す。
同病院では、クルーズ船が寄港する博多港近くという立地もあってこれまで20カ国・地域を超える外国人患者を受け入れてきた。外国人観光客の増加もあって、2013年は3人だった訪日外国人の入院患者も、16年には19人と急増している。
そんな中、トラブルもあった。昨春、親族訪問で来日中だった外国人男性が受診に訪れ「『1日でも検査入院が必要』と書いてほしい」と、在留資格の延長時に入管に提出する書類の作成を求めてきた。親族ともっと一緒にいたいのが理由だと推察されたが入院の必要性はなく、病院が断ると、男性はしつこく食い下がったという。
改正入管法で外国人労働者が増えれば、母国の親族が来日して同様の申し出をしてくる可能性は考えられる。加藤さんは「在留資格などの制度や諸外国の文化を頭に入れてしっかりと対応する必要がある」と痛感した。
そんな医療現場の不安に応えようと、外国人の生活支援に取り組む福岡市のNPO法人グローバルライフサポートセンターが、医療機関の事務職を対象に「国際医療事務養成講座」を昨秋から始めている。医療機関でのトラブルを防ぐキーマンとして、事務職員を育成するのが狙いだ。
昨年秋開いた1回目の講座には、福岡市内の病院の事務職員ら約20人が参加。在留資格の種類や日本と海外の医療制度の違いなどを学んだ他、訪日外国人が知人の在留外国人の保険証を悪用する「なりすまし」受診を防ぐため、写真付きの在留カードを確認するなど受付窓口での対応策にも耳を傾けた。
原三信病院でも事務職員3人と医師の計4人が講座を受講。受付窓口での在留カードの確認も導入した。
同センターの山下ゆかり理事長は「人命を尊重した医療を提供すると共に、外国人を取り巻く制度を理解して適切に対応できるかどうか。それが病院の経営や信用を守る上で重要だ」と話している。【青木絵美】
◇診療費の未収金が発生 対策も急務
厚生労働省が3月末にまとめた調査結果によると、昨年10月の1カ月間に外国人患者の受け入れ実績があった全国1965病院のうち、18.9%の372病院で診療費の未収金が発生していた。1病院あたりの未収金件数は平均8.5件で、総額は平均42.3万円に上り、100万円を超える病院もあった。
留学や仕事で長期在留する外国人は日本の公的医療保険の加入が義務づけられている。一方、観光や親族訪問を目的とした訪日外国人は全額が自己負担で、在留外国人の未収金が平均2万2917円だったのに対し、訪日外国人は平均4万9709円と倍増していた。
国は、キャッシュレス決済や前払いの普及などを未収金防止策として示している。
厚労省研究班で医療機関向けの外国人患者受け入れマニュアルの作成に携わった国際医療福祉大大学院の岡村世里奈准教授は「日本の医療制度や医療現場は、さまざまなタイプの外国人患者を想定したものになっておらず、人材育成も含めた国際対応が迫られている」と話す。
一言コメント
未収金対策は重要だ。
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