口の衰えは介護・死亡リスク高める…改善プログラムで栄養と会話維持 40~50代も
- 政治・経済
- 2019年4月2日
80歳で自分の歯が20本以上ある状態を目指そう――。そんな数値目標を掲げた「8020(はちまるにいまる)運動」が始まった平成元年(1989年)から30年。達成率は1割未満から5割に増えた。人生100年時代を迎え、今度は口腔(こうくう)機能の低下(オーラルフレイル)予防が新たな目標に加わった。(山田聡)
8020運動は、一生自分の歯で食べることを目標に、厚生省(当時)と日本歯科医師会が提唱した。達成率は当初7%程度(平均残存歯数4~5本)だったが、2016年調査では51・2%と半数を超えた。
増加の背景には、毎日の歯磨き習慣の浸透や、口の健康意識の高まりに加え、フッ素入り歯磨き粉やキシリトール入りガムなどの登場で、虫歯や歯周病が減ったことが考えられる。歯の本数をクリアした次の段階の課題として、注目され始めたのが口の衰えだ。
年をとり、かむ、のみ込む、舌を動かすといった口の働きが衰えると、健康な人に比べて4年後の要介護や死亡リスクが2倍以上に高まる――。東京大学高齢社会総合研究機構は、65歳以上の千葉県柏市民約2000人を対象にした研究で、口の衰えが寿命を左右することを示す論文を18年に発表した。
口の衰えが進むと、食事量、特に肉類が減少する傾向がある。栄養の偏りが健康状態の悪化や体力の低下につながったと推測される。研究をまとめた飯島勝矢教授は「口の衰えは、食事だけでなく、会話を減らし、社会的な孤立につながる可能性がある」と指摘する。
日本老年歯科医学会も口の衰えの問題を重視し、16年11月に「口腔機能低下症」の疾患概念と診断基準を公表。口の衛生状態不良、口の乾燥、かむ力の低下、舌や口、唇の運動機能低下、舌の押す力(舌圧)の低下、咀嚼(そしゃく)機能の低下、嚥下(えんげ)機能の低下といった7項目のうち、3項目以上が当てはまると診断される。
この問題に、本格的に取り組む地域も出てきた。神奈川県と県歯科医師会は16年から、高齢者が健康で生活できる寿命を延ばす事業の一つとして改善プログラムを開発、これまでに約100人が取り組んだ。
プログラムは、口と舌の動きとのみ込む力をアップする体操のほか、パ、タ、カを連続的に素早く発音する滑舌訓練などを、数か月間毎日行い、冊子に記録する。
川崎市の星行男さん(79)も、プログラムに取り組んだ一人だ。自分の歯は29本あるが、口の乾燥、硬いものがかみ切れない、汁物でむせる、滑舌が悪い(タの発音が1秒間に5回未満)という症状が見られ、当初は「衰えの危険性あり」と判定された。
プログラムを始めて6か月で改善し、発音は6回以上、舌圧の強さも3割増え、正常の判定になった。星さんは「食べ物がおいしく感じ、話す回数は、妻との口げんかも含めて増えた。外出も楽しみになり、改善プログラムによる想像以上の効果に感謝です」と笑う。
プログラム作りに協力した東京都健康長寿医療センター歯科口腔外科部長の平野浩彦さんは「ふだんから衰え防止を意識することが大切。40~50歳代から始めても早くない」と指摘する。
一言コメント
筋肉も口も普段から鍛えることが大切!?
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