あったか肌着戦国時代…町工場が『もちはだ』で狙う下剋上 3代目「世界から寒いをなくしたい」
大阪・守口市にある大型ショッピングモール。売り場の一角には所狭しと並んだ肌着の数々が…。
薄田ジュリアキャスター:
「例えば男性の商品では保温や、静電気防止のもの。レディースでは遠赤外線を放つものなど、機能性に優れた肌着が各メーカーからたくさん出ているんです」
実はこちらのショッピングモール、去年、西日本で初めて肌着などを中心とした専門の売り場を出店しました。
買い物客:
「薄めで暖かいものを選んでいます」
別の客:
「やっぱり暖かいもの。ヒートテックとか」
出ました、「ヒートテック」!こうした機能性肌着の人気は年々高まり、その代名詞「ヒートテック」は2017年、累計販売数が全世界で10億枚を突破!肌着ムーブメントを起こしました。
この王者に対抗しようと、ファッション通販大手「ZOZO」は2018年、「ZOZOHEAT」を発売するなど、肌着はまさに群雄割拠。戦国時代を迎えているのです。
■冒険家・植村直己に選ばれた『もちはだ』
そんな中、関西に下剋上を狙う肌着があるということで兵庫県加古川市に…。
薄田キャスター:
「のどかな風景が広がっていますが、突然目を引く黄色の建物が現れました。『もちはだ』と書いてあります」
創業から65年を迎えるワシオ株式会社。もともとは靴下作りからはじめたこの会社は、現在従業員40人。「もちはだ」というブランドで様々な商品を展開しています。
ワシオの3代目で現在は統括本部長の鷲尾岳さん(27)に案内してもらいました。
ワシオ・統括本部長 鷲尾岳さん:
「この靴下に、手をつっこんでみてください。暖かいんで」
薄田キャスター:
「サンタクロースのみたいですね。(手を入れて…)ほんとだ~気持ちいい~」
鷲尾さん:
「実はこの靴下、南極に冒険に行った植村直己さんが履いていたんですよ」
薄田キャスター:
「本人が選んで履いてたわけですよね。すごい!南極にも対応してる靴下ってことですか」
同じ兵庫県出身の世界的冒険家・植村直己さんも南極探検に出る際、「もちはだ」の靴下を使用していたというんです。
では、この「もちはだ」がどうやって生み出されているのか、工場を見学させてもらいました。
中に入ると金属音を立てながら生地を織る機械がずらり。この工場ではおよそ110台が稼働しています。まさに町工場!
ここならではの機械から生み出される、暖かさの秘密はというと…?
鷲尾さん:
「起毛が『もちはだ』の特徴なんですけど、起毛をこの機械で作るっていうのが世界でうちしかできないんです」
他ではまねできない独自の“起毛技術”。詳しくは企業秘密ということですが、その仕組みはこうです。
通常の起毛は、生地を織った後に毛羽立たせますが、この時、パイルと呼ばれる編目は切れてしまい、空気が逃げやすくなります。
一方、「もちはだ」独自の起毛は生地を織りながらパイルを切らずに毛羽立たせることが可能に!空気が2層にたまり逃げづらくなるため、魔法瓶のような働きをすることが暖かさの秘密なんです。他社の製品と比べるとその保温力はおよそ2倍!(兵庫県立繊維工業技術支援センター調べ)
■冷凍室で働く人も暖かさに太鼓判
薄田キャスター:
「『もちはだ』の保温力を試すためにやってきたのは、なんとマイナス20度の倉庫です。南極より寒いそうです。では体張ってきます」
やってきたのは神戸・中央区にある物流倉庫の冷凍室。ここで「もちはだ」の生地を使った靴下と市販の裏起毛の靴下を履いて実験します。
薄田キャスター:
「今、鼻がコキッ!て言いました。固まって」
極寒の中、待つこと10分…。
その後靴下を脱ぎ、どれくらい保温されているか調べてみると、確かに「もちはだ」を履いた足の方がおよそ3度高くなっていました。
普段この冷凍室で働く従業員さんにも着てもらい、いつもの作業をしてもらうと…。
従業員:
「今(いつもより)一枚脱いでます。着た瞬間からぬくくて逆に汗ばむと思って脱ぎました」
■“3代目”の入社後、業績がV字回復
まだまだ秘密はあるはず!ということで、再び加古川市のワシオの工場に戻ると、なんと作業場の一角には火花を散らしながら金属の加工を行う光景が!
小谷章二さん(71):
「自分で手作りをしてるんです。機械を作ってます」
薄田キャスター:
「この工場に並んでる機械は全部小谷さんが?」
小谷さん:
「最初はみんなわたしの手を通っています」
従業員の小谷章二さん(71)は、「もちはだ」が誕生した当時から働く社内の最年長。暖かさの秘密は職人お手製の機械にあったんです。
鷲尾さん:
「僕が新しいものを作りたいという相談は、だいたい小谷さんにしています。『できますかー?』『できひんわ』みたいなやりとりがあって。無茶ぶりばかりですけど…」
小谷さん:
「無茶ぶりも結構や」
町工場ならではの手作り感が持ち味のワシオですが、創業以来幾度となく試練がありました。
近年は大手メーカーや海外の格安商品に押され、売り上げは減少傾向に。3年前にはついに、創業以来の大赤字となりました。
ワシオ・鷲尾吉正社長:
「古くからのリピーターがついてはくれたけど、新たな客の取り込みを大きくは考えずにやってきてしまっていて、ジリ貧状態に」
そんな窮地を救ったのが大学を卒業後、中国で働いていた息子の岳さん。大赤字となった3年前、ワシオに入社しました。
統括本部長 鷲尾岳さん:
「(入社当時)一つ上の社員が40歳とかだったんです。平均年齢がめちゃめちゃ高くて。最初の年、個人的に『絶対YouTubeeの広告がいい』という話を社内でしたんですけど、だれもついて来なくて…」
社内で賛同者がいない中、チャンネル登録者数113万人の人気釣りYouTuber『釣りよかでしょう。』を起用して実際に着てもらい、動画を作ってもらうと…。
<『釣りよかでしょう。』の動画より>
「いや…全然寒くないわ。おかしい。冗談抜きで、これ一枚でいいわ!」
これがズバリ的中し、売り上げは急上昇!
若い人にも知ってもらおうとインターネットを中心に次々とPRした結果、業績は2015年度にマイナス約1800万円だったのが、2017年度にはプラス約340万円と見事にV字回復!大手メーカーより価格帯は高いものの、ネット通販の売り上げも好調です。
縫製担当の女性:
「今までは年寄り向きの商品が多かったけど若い人が着るようなものが多くなりました。うれしいです」
Q.今後の展開は?
鷲尾さん:
「寒いから外出ないとか、寒いから布団の中にくるまってるとか、もったいないじゃないですか。世界から寒いをなくしたいという思いがあります」
独自の技術力に加え、年代問わず活躍するからこそ作られる「もちはだ」。みなさんも関西の町工場が生んだ“あったか肌着”を試してみてはいかがですか?
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ぜひ試してみたい。
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