老舗ホテル、今年も異例の10連休中 減収でもハッピー
- 企業・経済
- 2019年1月20日
昨年、異例の10連休を導入した大分県別府市の老舗ホテル「杉乃井ホテル」(647室)が、今年も10連休に入っている。顧客の満足、従業員のモチベーション、収益への影響……。様々な懸念を乗り越え踏み出した佐々木耕一・総支配人(71)の「従業員のハッピーが、お客様のハッピーに」との思いは、2年目も揺らいでいない。
「全館満室」が当たり前の人気ホテルは、別府湾を見下ろす高台に立つ。15日から24日まで閉館しており、あたりにいつものにぎわいはみられない。
「お客様の満足度にひたすらこだわってきたが、社員の満足度にも力を注がないといけない。連休拡大は避けては通れなかった」。佐々木総支配人は、10連休導入の理由をそう話す。
以前も年末年始の繁忙期後の1月中旬に、5日連続で休館をしていた。ただ、普段は従業員が連休を取ることは難しい。「このままでいいのか。働いている本人はよくても、家族はどうだろうか」と、長い間悩んできた。
背中を押したのは、政府が取り組み始めた「働き方改革」だ。有能な人材を集めるためにも改革は不可欠。「どうせなら10連休にしよう」と思い切った。社内でも大きな反対はなく、実現に至った。
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対象者はフロントや調理など、現場で働く約500人。導入は社員らから歓迎された。初めて家族旅行をしたり、介護が必要な親を遠く離れるひ孫に会わせたり。短い休みでは難しかったことを実現させる社員も多かった。
連休中には希望者向けに5日間の海外視察も用意。約200人の交通費や宿泊費などの経費は会社が65%を負担する。調理担当の松木美咲さん(19)は昨年ハワイの視察に参加。「海外の店員の接客も勉強になった。この連休を毎年続けてほしい」と話す。
ホテル利用客の反応は様々だ。広島市の60代の男性経営者は「サービス業でしょ。そろって休む必要はあるのかな。交代でという選択肢もあるのでは」とやや辛口。一方、日田市の会社員森郁恵さん(25)は「それでリフレッシュできるなら」と肯定的だ。
宮崎県都城市から夫婦で訪れた森知代巳さん(50)は、「働く人のことを考えたら絶対にいい。お休みなら利用者は別のホテルを探せばいい」。
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ただ、満室続きなのに休館すれば、収益への影響は避けられない。週末も休むことになるため、結婚式や披露宴、イベントなど宿泊以外でも大きな額の損失が出る。昨年の連休中の減収は、予想をはるかに上回る数億円にのぼった。
それでも、「社員がリフレッシュできるなら、どちらを取るかは明白だ」と佐々木総支配人は断言する。社員たちが外で経験するおもてなしやサービスで「ハッピー」になることが、仕事への新たな意欲にもつながると考えるからだ。
「休んだことで明るくなり、いいホスピタリティーで接客できれば、お客様もハッピーになる。それが会社の評価や知名度向上にもつながる。10連休には減収に勝るメリットがある」
一言コメント
思い切ったことをやるね。
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