東名あおり 長女「私たちの気持ちを考慮してくれた判決」
- 事件・事故
- 2018年12月15日
悪質なあおり運転が社会問題化する契機となった東名高速のあおり運転事故。高速道路であおり運転を受けて停車させられ、後続車に追突されて萩山嘉久さんと妻友香さんが死亡、娘2人もけがをした事故を巡り、横浜地裁は14日、危険運転致死傷罪を適用し、石橋和歩(かずほ)被告(26)に懲役18年を言い渡した。事故から約1年半。被告、被害者は何を思ったのか。
14日朝、地裁周辺に傍聴を希望する人の列ができた。41席に682人が並び、関心の高さをうかがわせた。
午前11時に開廷すると、冒頭、深沢茂之裁判長は被告に「何か言いたいことはありませんか」と問いかけた。被告は「ない」と短く答えた。危険運転致死傷罪は無罪と訴えていた被告だが、判決理由を読み上げられる間は時折腕を組み、真っすぐ前方を向いていた。
裁判には夫婦の遺族も参加し、厳罰を求めた。判決後、遺族が代理人弁護士を通じてコメントを出した。
長女(17)は4日の証人尋問で当時の状況を証言した。停車後、被告が謝る父に「殺されたいのか」とすごんだ状況を振り返り「あおり運転を減らすために重い刑罰を」と訴えた。判決を聞いた長女は「私たちの気持ちを考慮してくれた判決で良かったです」とした。
嘉久さんの母文子さん(78)は「量刑について全面的に納得できるものではありませんが、危険運転と認められたことは良かった」とし、危険運転の根絶を願った。
自動車運転処罰法が規定しない停車後の事故。裁判員も難しい判断を迫られた。裁判員を務めた女性(45)は記者会見で「前例のない事件で、もとになる資料もなく、被害者側の気持ちになってしまうこともあり、判断に悩んだ」と話した。
傍聴席には、2012年に京都府亀岡市で集団登校の児童らの列に無免許の少年の車が突っ込み10人が死傷した事故で、妊娠中だった長女松村幸姫(ゆきひ)さん(当時26歳)を失った中江美則さん(55)の姿もあった。傍聴を続けていた中江さんは危険運転致死傷罪が適用されたことについて「危険運転が認められたのはうれしく思う」と評価し、「一歩以上の前進。しっかり罪が認められるような形を作ってほしい」と期待した。【中村紬葵、堀和彦、国本愛】
◇「傷害致死罪で立件すべき事案」
井田良・中央大大学院教授(刑法)の話 判決は、被告があおり運転の後に被害者に暴行をしたことなどを捉え、妨害運転と事故は直接的な因果関係があると判断したのだろう。ただ、危険運転致死傷罪の処罰の根拠は、あくまで類型化された危険行為であり、今回の裁判では傷害致死罪で立件すべき事案だったと思う。
◇「結果として妥当な判決」
元東京地検特捜部検事の高井康行弁護士の話 結果として、危険運転致死傷罪を認めた判決は妥当だと考える。結果としてというのは、判決は高速道路上での直前停止行為が危険運転に該当しないといったが、そこは法文の解釈を誤っているのではないか。判決では妨害運転を危険運転とし、因果関係について認めた。その点については肯定的に評価できる。
一言コメント
専門家でも意見が割れる裁判だった。
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