改正漁業法が成立 企業の参入促す 漁業者との連携カギ
- 政治・経済
- 2018年12月9日
水産業の成長産業化を目指す改正漁業法が8日未明、参院本会議で可決、成立した。世界的に拡大する養殖業に企業参入を促すなど「70年ぶりの抜本改革」(安倍晋三首相)だが、漁業関係者は不安を訴えている。改革の実現には、利害が対立しがちな漁業関係者と企業の協力が欠かせない。漁業権を付与する都道府県には「企業の質」を見極める目が求められそうだ。
法改正は、乱獲などで天然魚の水揚げが減り困難を増す漁業経営が背景にある。補助金分を除くと7割の漁協が赤字に陥る中、養殖に活路を見いだしたものの、出荷まで2~4年かかるサーモンやマグロの養殖を漁協単独で担うのは難しい。過去10年で漁業者が25%減の約15万人となり、養殖のいけすの総面積も4分の3に減るなど活用されない漁場が増える実態もある。
企業は現在、養殖に必要な漁業権を持つ漁協の傘下に入り、漁業権行使料などを払う必要がある。このため2年以内に施行される改正法は地元漁協などに優先的に漁業権を与える規定を廃止し、都道府県の裁量で企業も漁業権を得られるようにして主に養殖業で新規参入を促すのが柱だ。
しかし、宮城県塩釜市の漁師、赤間広志さん(69)は「漁業権は漁師のなりわいの原点だ。知事の独断でモラルのない企業に漁場を奪われるおそれがある」と警戒する。大手外資企業がわずか5年でブリ養殖から撤退した例もあり、「もうからなければ企業はすぐに撤退する」との不信感がある。
「改革は必要だ。漁業は廃れる一方で、企業の力も借りなければ浜を存続できない」。青森県の深浦漁協担当者は語る。2016年、ワカメ養殖をしていた漁場でより収益性の高いサーモン養殖を始めた。資本とノウハウを提供したのは海外でサーモン養殖に携わる魚卵加工、オカムラ食品工業(青森市)。県内の漁師ら7人を雇用し、直径20~25メートルのいけす五つで最大2万6500匹を生産している。
地元漁師との利害調整を漁協に任せる企業が多い中、同社と漁協は「全員参加のまちづくり」を掲げ、町ぐるみで協議する場を設けた。目先の利益より長期的なビジョンを優先する仕組みだ。同社の岡村恒一社長(57)は「サラリーマンは漁船を操縦できずしけにも対応できない。地元漁師は即戦力だ。双方にメリットがあるが、これからは企業の質も問われる」と語る。【加藤明子】
◇鹿児島大の鳥居享司准教授(水産経済学)の話
国内市場は縮小しており、海外に販路を求めなければ水産業の展望は開けない。大手企業の資本や最新技術、販売力を生かせば、養殖は外貨獲得産業になりうる。マグロ養殖では雇用創出などで地元に貢献した企業が、当初反発した漁業者からも漁場を譲り受け、規模拡大を進めている。改革の結果、企業が漁協を脱退するなど力関係が変化する可能性はある。養殖には漁場提供だけでなく、いけすの周辺で消灯したり、波を立てずに航行したりするなど漁業者の協力が欠かせない。企業にも地元漁業者への配慮が求められる。
◇ことば・改正漁業法
漁業権を付与する際の優先順位規定を廃止する。カキやブリの養殖に必要な漁業権は地元漁協が最優先。地元漁協が権利を放棄した場合のみ企業が直接漁業権を得られた。改正法施行後は都道府県知事が「漁場を適切かつ有効に活用している」と判断すれば漁協に継続的に与えるが、それ以外は企業を含む「地域の水産業の発展に最も寄与すると認められる者」に付与する。知事が恣意(しい)的に運用する懸念が残るため、政府が判断基準のガイドラインを作成する。
一言コメント
漁業の衰退に歯止めをかけるべく運用してもらいたい。
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