<保険営業>「基本給」は貸付金 2年で141万円背負う
- 企業・経済
- 2018年11月25日
◇代理店契約社員「搾取」と訴訟相次ぐ
全国規模で展開する保険代理店で働く契約社員の営業マン(保険募集人)が、不当に低賃金で働かされたとして、未払い賃金の支払いなどを求める訴訟が相次いでいる。原告側は、会社が支給する「基本給」の返済義務を負わされ、多額の経費も負担させられるシステムが「搾取に当たる」と訴えている。金融庁の方針で、保険業界で一般的だった「個人事業主」の雇用化が進むが、一部に旧態依然とした働き方が残る実態が浮き彫りになった。【樋口岳大】
「請求金額141万8508円」。複数の生命保険会社の商品を扱う乗り合い代理店の長崎市の支店で2015年10月から契約社員として働いていた男性(43)は、昨年11月に雇用契約を打ち切られた際、「報酬未精算額」の名目で、2年2カ月の在職期間中に膨らんだ「借金」の支払いを求められた。
男性によると、「基本給」として毎月12万円が支給されたが、実態は貸付金だった。保険契約を取れれば基本給に上乗せして成果報酬が得られることになっていたが、報酬からはさまざまな経費が差し引かれた。
負担が最も大きな経費は、代理店から配信される、契約を検討している見込み客の情報料で、客1人当たり2万円余り、多い月で40万円近くが差し引かれた。だが事前にはどの程度見込みがある客か分からず、情報配信されても契約に結びつかないケースも多かった。支店の「事務所維持管理費」や「PCリース・システム利用料」なども差し引かれた。
売り上げ(生保会社から代理店に支払われる手数料など)と経費の収支がマイナスになると、赤字部分が基本給と同様、報酬未精算金になり蓄積した。プラスの月も未精算金の支払いに回されるため、結局報酬は受け取れなかった。こうしたシステムについて、男性は「入社前に説明がなかった」と主張する。
男性は退職時の未精算金の支払いを拒否し、今年7月、経費が引かれなければ受け取れていた賃金などとして約380万円を会社に請求する訴訟を長崎地裁に起こした。
一方、別の代理店の北九州市などの支社に契約社員として勤務していた元営業マン3人も今年4月、会社に計約260万円の支払いを求める同様の訴訟を福岡地裁小倉支部に起こした。原告の男性(47)=山口県下関市=は、見込み客の情報料などの経費が膨らみ、給料の支払いがない月が何度もあったと主張。「入社前には『無料で紹介できる案件が月10件くらいある』と言われたが、実態は違った」と憤る。
いずれの会社も取材に「コメントは控える」などと回答した。
両社は全国展開しており、長崎訴訟の原告代理人を務める中川拓弁護士は「同じように苦しむ人が相当数いるはずだ」と指摘し、所属する九州労働弁護団で相談を受け付けている。各地の相談先の電話番号はホームページ(http://kyushurouben.org/)で紹介している。
◇専門家「強い違和感」
元営業マンが「搾取だ」と訴える賃金システムの背景には、金融庁が保険代理店側に営業マンの「雇用」を求めた2014年の監督指針の改正がある。
保険業界では従来、代理店と業務委託契約を結び「個人事業主」として働く営業マンが多かったが、金融庁は保険業法で禁じられた「再委託」に当たるとして、「雇用」などに変更するよう要請。金融庁は代理店側に「労働関係法規の順守」を求めたが、相次ぐ訴訟で、最低限の賃金などが保証された「労働者」とはほど遠い就労実態が明らかになった。
福岡地裁小倉支部で係争中の原告3人を支援する「ユニオン北九州」の本村真・執行委員長は「『社員』であるなら、多額の経費負担や、赤字の累積はありえない。『委託』から『雇用』への変化に会社が対応できていない」と批判する。
脇田滋・龍谷大名誉教授(労働法)は「労働者は、会社の指揮下で働いた労働時間に見合った賃金を受け取るというのが、労働法の基本的な考え方だ。原告らの働き方は、従来の委託契約を無理に労働契約に押し込めたようで、強い違和感がある」と指摘した。
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違和感のオンパレードや!
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