相次ぐ「梅だる」盗難、その背景とは 和歌山
- 事件・事故
- 2018年10月19日
田辺市やみなべ町など梅干しブランド「南高梅」の生産地で近年、農家から梅を入れた「梅だる」が盗まれる被害が相次いでいる。今月16日には、みなべ町の農家の倉庫から大量の梅だるを盗んだなどとして男2人が窃盗罪などで起訴された。男らには梅の仲買人などの経験があり、“身内”ともいえる人物の犯行に生産者も憤りを隠さない。(岩本開智)
■倉庫から根こそぎ
「朝きたら、なんもなくなっていた…」。田辺市三栖地区の梅農家の50代男性は平成28年9月、梅だるを入れていたはずの倉庫が空になっているのを見て愕(がく)然(ぜん)とした。
盗まれたのは約200たる(約2トン、時価総額140万円相当)。倉庫に掛けていた鉄製の鍵は壊され、人を感知して光る防犯ライトもコンセントごと引き抜かれていた。「よくこんなことができたな」と今でも怒りが収まらない。
男性によると、梅の収穫時期は毎年6月ごろ。梅干しの原材料には、熟して木から落ちた梅の実が使われる。落ちたその日のうちに漬け込まないと、すぐに腐ってしまうという。さらに1カ月ほど塩漬けした後、順次天日干しをしてたるに詰め、出荷する。出荷作業は年明けまで続く。
「犯人は梅農家の大変さをよく分かっているはずだ」と男性。今では鍵を頑丈なものに付け替え、防犯カメラも新設している。
■被害後を絶たず
県警によると、統計を取り始めた平成24年以降、梅だるの盗難被害は田辺市で6件、みなべ町で7件(うち1件は未遂)。計約2千たるが盗まれ、被害総額は約900万円に達した。
JA紀南(田辺市)によると、南高梅の中でも最高品質にあたるA級品は、1たる(10キロ)5千~1万円の高値で取引され、盗まれれば被害は多額に上る。
業者でつくる紀州田辺梅干協同組合によると、農家から出荷された梅だるは加工業者に渡り、塩抜きや味付けをされて店頭に並ぶ。ただ、仲買人が直接農家から買い取り、加工業者に売ることもある。
みなべ町で梅だるを盗んだとして起訴された男らには、その仲買人の経験があった。町などによると、仲買人の多くが個人事業者で資格や許可は必要なく、人数などは不明。ある農家は「梅の価格が上がると、見知らぬ仲買人が増える」と明かす。
男の倉庫からは、盗まれた農家の氏名などが記載されたラベルがたるから剥がされた状態で見つかった。県警は、生産者を偽るため別のラベルに貼り替え、仲買人として紛れ込んで売却したとみている。
■対策乗り出すも
相次ぐ被害に対策の動きも出てきた。
協同組合では28年9月以降、盗難品や生産者不明の梅干しを購入しないことを決めており、仮に不審な梅だるの取り引きを持ちかけられた場合、すぐに警察に通報するよう関係者に呼びかけている。
JA紀南の青年部三栖支部は28年、梅だる倉庫の見回り隊を結成し、出荷の増える9月頃から翌年1月までの時期に週1回、夜に2人5組で地区内の梅農家約200軒を見回り警戒している。
支部長で自身も梅農家の掛田雄史さん(34)は「家と倉庫が別の場所にある農家も多く、夜間は人通りも少ないため監視の目が少ない」と指摘。隊の結成以降、地区内では窃盗被害はないというが、「見回り活動だけでは被害を完全には防げない。各農家が自費で防犯カメラを付けるなど対策を進めるしかない」と苦慮している。
一言コメント
厄介な問題だ。
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