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ソニーが「ノイズキャンセル」で狙う音響復活 20年ぶりにオーディオ機器事業が増収


ソニーが日本で10月6日に発売したノイズキャンセリングヘッドホンの第3世代製品「WH-1000XM3」(撮影:今井康一)

「大学の友達の間では、ソニーのヘッドホンを着けて勉強するのがとてもはやっている。中国人はソニーブランドを質のいい製品として信頼しているんだ」

今、中国でソニーのノイズキャンセリングヘッドホンが人気を集めている。上海に住む22歳の男子大学生は、熱く語ってくれた。アリババグループが運営する中国最大のネット通販サイト、「天猫(Tmall)」で人気なのが、ソニーのワイヤレスヘッドホン「MDR-1000XM2」。価格は、公式ストアのもので2899元(約4万7500円)だが、若者を中心に大人気だという。

2017年度、ソニーは営業利益で7348億円をたたき出し、20年ぶりに過去最高を更新した。空前の好業績はゲーム事業のほか、音楽事業などのエンターテイメント系コンテンツといった高収益のビジネスが好調なことが大きい。ただ、オーディオ機器やカメラなどのエレクトロニクス製品の採算が改善していることも大きく貢献している。

ワイヤレスヘッドホンが世界でブームに

特にオーディオ機器は、実に20年ぶりの増収となった。ヘッドホン(イヤホンも含む)や携帯音楽プレーヤーの「ウォークマン」などがここに入るが、中でも牽引したのは3万円を超えるような高価格帯のワイヤレスヘッドホンだ。冒頭に挙げた中国市場向けが、若者からの熱狂的な支持で売上高の4割超を占めるほか、欧米や日本でも好調。ウォークマン以来ともいわれるヒット商品も誕生している。

ソニーはヘッドホンだけでなく、ノイズキャンセリングイヤホンも展開。写真は防水機能がある「WF-SP900」(日本では10月27日発売予定)(撮影:今井康一)

そもそも、世界のヘッドホン市場全体には今、追い風が吹いている。年率5%程度しか伸びないオーディオ機器市場の中で、ヘッドホン市場に限れば2018年1~6月の世界販売額が前年同期比26%増(GfK調べ、片耳のみのモノラルをのぞく)となった。

きっかけとなったのが、2016年9月に米アップルが発売したスマートフォン「iPhone 7」「iPhone 7 Plus」から、イヤホンの端子を差し込むジャックが廃止されたことだった。この年の12月、アップルは独立型のイヤホン「AirPods(エアーポッズ)」を発売。当初は税込みで約1万8000円という価格が高いとの声があったものの、白いエアーポッズを耳に付けた人々が街を闊歩する風景は、都心部などでは今や当たり前となった。

これに刺激されたのが、停滞していたヘッドホン市場だ。「消費者はスマホに同梱されているものではなく、せっかく買うならいい音で聞きたい、とお金をかけるようになった」(ソニーでヘッドホンの商品企画を担当する大庭寛氏)。調査会社のBCNによれば、完全ワイヤレスヘッドホンの平均単価は1万7000円。ヘッドホン市場全体の平均単価を見ると、2016年の2000円台から、倍の4000円台まで押し上げられた。

ソニーはブームの波にうまく乗った

この波に上手く乗ったのがソニーだ。エアーポッズが発売される1カ月以上前に、ワイヤレスヘッドホンの旗艦モデル「MDR-1000X」を投入。もともとは、頻繁に飛行機に乗るビジネスパーソンなどを狙い、飛行中の雑音を消して睡眠や仕事に集中できることを売りにしていた。

ソニーの「1000X」シリーズには、耳当ての外側を手で覆うと、外界の音が聞こえるようになる機能がある(撮影:今井康一)

だが、通勤中にスマホで動画やゲーム、「オーディブル」などの朗読コンテンツを楽しみたいという需要も拾った。さらに、飛行機や電車内でのアナウンスが流れたとき、耳当ての外側にあるタッチパネルを手で覆うだけで外界の音が聞こえるようになる機能も、その手軽さがウケた。

価格は税込み4万円超と、ちょうどボーズや米ビーツ・エレクトロニクス(アップル傘下)とも競合する価格帯だ。それでも、「店頭では圧倒的にソニーが人気」(都内の家電量販店店員)。

ソニーの「1000X」シリーズの最大のライバルとして、米ボーズも税込みで4万円近い価格のワイヤレスヘッドホンを展開する(写真:ソニー)

今年8月末には、新開発した消音用ICチップを搭載し、街中の音など、より幅広い音域の雑音を取り除ける第3世代の新製品「WH-1000XM3」も発表(日本国内では10月6日に発売)。発売前から、欧州、アジアなど世界で注目を集めた。前出の商品企画担当・大庭氏は、「久々にヒット製品が出たといっても過言ではない」と語る。

ヒットが生まれた背景には、事業部内のモチベーションが上がったことも大きい。テレビやオーディオ機器の“再生請負人”として2012年から事業を率いる高木一郎専務は、就任当初の事業部の雰囲気をこう語る。「私が来たときのオーディオ部門は、エンジニアたちの間に何ともゆるい空気が蔓延していた。せっかくいい技術をもっているのに、生かす先がなかった」。当時はスマホで音楽を聴くのが主流になっていたが、ヘッドホンはあくまで付属品。ソニーも数千円台の安価な製品を広く展開していた。

再奮起させるために高木氏が打ち出したのが、CDを超える「ハイレゾリューション音源」(ハイレゾ)市場の開拓だった。「2013年に初めて商品化して、ハイレゾはソニーが牽引するんだ、と意識づけた。これまで抑制していた予算も、旗艦モデル開発のために潤沢に出した」(高木氏)。サウンドマスターと呼ばれる、“音のソムリエ”のような役割を担うエンジニアも配置し、ソニーらしい音を作ることにこだわった。

ノイズキャンセリングヘッドホン「1000X」シリーズの商品企画を担当した、ソニービデオ&サウンドプロダクツの足利祐二統括部長(右)と、大庭寛氏(左)(撮影:今井康一)

さらに量販店の棚作りにおいても、「ソニーはここ数年、ヘッドホン売り場に相当額のリベート(販売奨励金)を支払い、一等地の広い売り場を展開できるようになった」(都内の家電量販店店員)。商品企画の足利祐二氏は「高木氏は当時、常に『上を見ろ』と言っていた」と振り返る。

その結果、2017年度のオーディオ機器の売上高は推定約2700億円と前年比で3割伸びた。高価格帯の売れ行きがよいため、採算も改善しているという。

ソニーは本当に復活できるか

ソニーの社名が英語の「SONIC」に由来するように、音声機器は創業期のソニーを国際ブランドに押しあげた同社のDNAともいえる事業だ。さらに今年5月には英音楽出版社・EMIミュージックパブリッシングの買収を発表するなど、音楽コンテンツの保有に攻勢をかけるソニーにとって、その“出口”となるハードウェアに人気モデルがあることは重要だ。

1979年にソニーが初代ウォークマンを発売したときのように誰もが買い求めるようなヒットを再び作るのは難しいうえ、同じものが大量に売れる時代でもない。ただ、オーディオ機器からの久々のヒット登場は、ソニーの復活を裏付ける1つの証拠だといえる。

 

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