毒の見分け困難な「雑種フグ」急増、温暖化で生息域変化…食中毒懸念も
- 流通
- 2018年10月15日
高級食材の代表格であるフグをめぐり、有毒部位が不明な「雑種フグ」が増えている。温暖化で生息域が変わったことによる異種交配が要因とみられ、漁獲地域も変化。種類不明のフグは市場や調理者が排除しているが、見た目が従来種と酷似したものも見つかっている。フグを選別する調理者の資格基準は自治体で異なっており、鍋シーズンを迎える中、関係者からは「食中毒などの事故が起きかねない」として国や自治体に対応を求める声が上がる。(今村義丈)
■温暖化の影響
「フグの雑種は以前からいたが、これほど大規模に出ているのは魚類全体でも異例だ」
雑種増加を突き止めた高橋洋・水産大学校准教授はこう指摘する。
高橋准教授が平成24~26年に茨城、福島、岩手の3県の太平洋沖で漁獲された種類不明のフグ252匹のDNA型を調べたところ、半数以上の149匹が雑種と判明。主に太平洋に生息するショウサイフグと、日本海に多いゴマフグが掛け合わされたものだった。
高橋准教授は「温暖化の影響で海水温が上昇してゴマフグが北上し、太平洋側に入り込んだためではないか」と推測する。雑種は見た目がショウサイフグとほとんど変わらないものもいたという。
■市場流通の恐れも
この2種はトラフグ属。日本海西部や瀬戸内海、東シナ海などで獲れる最高級のトラフグほど一般的ではないが、いずれもフグ料理店で出されることがあり、インターネット通販でも調理品が売られている。
フグは種類によって有毒部位が異なるため、厚生労働省は自治体向けの通知で、食べられる部位を種類別に限定。種類不明のフグは有毒部位も不明なため、厳重に選別・排除し消費者の口に入らないよう市場関係者らに求めている。通知で認めた部位以外を販売、提供した場合、食品衛生法違反として3年以下の懲役か300万円(法人は1億円)以下の罰金が科される。
厚労省の担当者は「食べられる種類、部位だと明確に分かるものでなければ流通させてはならない運用。雑種が増えても、もともと排除しているので大きな問題はない」と強調するが、選別・排除は基本的に市場関係者や調理者らが見た目で行っている。見分けが難しい雑種が増えれば、市場に流通する恐れも出てくる。
雑種フグ急増の要因とみられる生息域の変化は、漁獲量にも表れている。
水産庁によると、フグの漁獲量は長年、日本海側や東北が多かったが、近年は北海道が上位に。同庁がフグ類の統計を取り始めた平成7年は北海道は27トンだったが、27年には459トンと約17倍にも増加し、全国の1割弱を占めた。
■調理資格「統一を」
ここで問題となるのが、フグの調理資格が自治体ごとに異なる点だ。
フグの消費が多い山口県や東京都などでは試験に合格しなければ調理できないが、北海道では講習を受ければ可能で、実務経験年数の要件もない。北海道庁は「漁業関係者から『雑種が増えた』といった声は届いておらず、特に基準見直しは考えていない」としている。
こうした状況に危機感を抱くのが、市場やフグ料理店の関係者だ。8月に東京・築地で開かれた「ふぐサミット」で代表を務めた京都市のフグ専門店店主、亀井一洋(かずひろ)さん(67)は「都道府県で異なる資格制度では環境変化に対応できず、事故につながる恐れがある」と強調。サミット後、調理資格を国家資格に統一するよう求める要望書を厚労省に提出した。
これに対し、厚労省は「まだ雑種の実態確認をしている段階」として資格統一は未検討としつつ、「フグ類の輸出が増える中、フグ調理者と認定する基準を国で示せるかどうか検討している」としている。
奈良県立医大の今村知明教授(公衆衛生学)は「まずは各自治体で最新情報を把握し、対処する必要がある。国も自治体の参考となる情報を提供した方がいい」と提言している。
一言コメント
被害が出なけりゃいいけど…
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