SUSHIに続き世界へ広がる日本の「おむすび」
- 政治・経済
- 2018年8月13日
日本の米料理と言えば、多くの国で「SUSHI」が知られているだろう。しかし、日本の米料理はSUSHIだけではない。日本人のソウルフードとも言うべき「おむすび」の海外進出がこのところ相次いでいる。
郷に入れば郷に従え
2014年7月に、シンガポール初のおむすび専門店としてオープンしたのは「SAMURICE」。日本産の米を使った同店のおむすびは、おむすびの中に具を入れるだけでなく、上にも具がたっぷり盛られている。
これには、シンガポールならではの理由があるのだと運営会社SAMURAI FOOD代表の長山哲也さんが言う。
「東京で修行させていただいたおむすび屋『ぼんたぼんた』の手むすびを踏襲しているのですが、おむすびの中身だけでなく、トッピングとして具をたくさん盛っているのが、現地の食習慣にも合っているのだと思います。日本人がおむすびの一口目に”お米と海苔だけ”でもおいしく感じるのとは違い、シンガポール人は普段お米にさまざまなおかずをかけて食べるため、一口目から具とお米を一緒に食べられるほうがおいしく感じてもらうことができます」
「それと、並べた時の彩りの豊かさ。日本のコンビニで売られている工場生産のおむすびは、具が見えず、ラッピングに鮭やツナマヨなどと書かれていますが、シンガポールでは、具が見えないとおいしそうだと思ってもらえないのです」
他にも、タイ料理のガパオ風のおむすび、パクチーをトッピングしたシンガポールチキンライスのおむすびなど、”アジアンフードのおむすび化”という試みも。同社で使用している日本の契約農家の米は、和風だけでなくエスニックの具も受け止めているようだ。
同社は現在シンガポールで5店舗とデリバリー事業を展開し、アメリカでも2店舗を展開している。
おむすびに対するイメージも変化
他民族国家で食文化も多彩なシンガポールはさておき、米食文化のある国とない国では、おむすびに対する認知の度合いや浸透の仕方には違いがあるのだろうか。
米食文化があるベトナムのホーチミンには、アンジメックス・キトクが運営するおむすび屋「東京むすび」が2016年2月にオープンした。アンジメックス・キトクは、米穀販売を主力とする日本の食品卸売大手の木徳神糧と、ベトナム・アンザン省の輸入公社アンジメックスによる合弁会社だ。
ベトナム産ジャポニカ米を使った「東京むすび」の鮭おむすび(筆者撮影)
東京むすびの塩むすびは、日本の新潟県産コシヒカリを使用。具材入りのおむすびは、同社がベトナム南部のメコン川流域の稲作地帯で栽培したジャポニカ米を数品種ブレンドして使っている。
同社ホーチミン支社の木戸あゆみさんによると、ベトナムにはかつておむすびに似たような食べものがあったそう。ごはんをぎゅっと押し寿司のように固めてカットする「COM NAM(コムナム)」という食べもので、おむすびと言うよりは、ごはんを握らずに具材をサンドする「おにぎらず」に近いイメージだ。
ところが、「コムナムに戦時中の貧しいイメージと重ねてしまい、おむすびに対しても良いイメージを持っていない人もいた」と木戸さん。米文化があるといっても、ベトナムではまさかのマイナスイメージからのスタートだった。
しかし、最近ではホーチミン市内でチェーン展開する日本のコンビニエンスストアでおむすびを販売していることもあり、若者を中心に評価やイメージが上がってきているという。
ベトナムの日本系スーパーで売られているおむすび(筆者撮影)
東京むすびの店頭メニューは、鮭や塩昆布などどちらかというとシンプルなラインナップ。ベトナムの人たちに人気の具材はツナマヨで、日本人が好きな鮭も支持されている。
とはいえ、ベトナムでもやはり食の嗜好の壁はある。現地では味の濃い肉や魚をおかずにごはんをかき込むように食べるため、粘りがあって、どっしりしたジャポニカ米はなじみにくい。しかし、パサっとした長粒種の米をひとまとめにし、おむすびをつくるのは難しい。そこで東京むすびでは、ベトナム人を意識してごはんを多少硬めに炊いているという。
おむすびは食の親善大使
一方で、あえて米文化のない国に進出したのは、日本で首都圏を中心に43店舗を展開する「おむすび権米衛」だ。海外ではアメリカ・ニューヨークとニュージャージーの2店舗に続き、2017年11月にはフランス・パリに海外初の路面店もオープンした。
使っている米は、日本の契約農家の米。米文化がないパリでおむすびが受け入れられるのだろうかという当初の心配は杞憂に終わったようで、天むす、和風ツナ、うなぎなどこってりしたものが人気だという。かつては、真っ黒な見た目で欧米で嫌厭された海苔も、現在ではまったく抵抗なく受け入れられているそうだ。
パリに路面店としてオープンした「おむすび権米衛」(写真=おむすび権米衛提供)
シンガポール、ベトナム、そして、食の都パリ。他にもアメリカや香港などでも、それぞれの国の食文化を受け入れながら、現地の人々にも支持されていくおむすびは、なんと懐が深いのだろう。
海外でかたちを変えていくおむすびは「もはや日本食ではない」と言う人がいるかもしれないが、おむすびは、日本と世界の国々を「結ぶ」、食の親善大使となる可能性に溢れている。
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ぜひ世界に広めてもらいたい。
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