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物流「大動脈」山陽線が寸断 暮らし・経済に大きな打撃


西日本豪雨で寸断されたJRの在来線が復旧に1カ月以上かかる見通しとなり、地域の暮らしを直撃している。東日本から九州を結ぶ物流の「大動脈」である山陽線が断たれて荷動きも滞り、日本経済全体に影響が波及しつつある。

自動車産業が集まる九州には、東北をはじめ本州から鉄道で運ぶ部品が届かなくなった。日産自動車九州(福岡県苅田町)は、日産グループにおける国内生産のほぼ半分を担う拠点だ。「生産に支障が出ないことを最優先」(同社担当者)とし、鉄道で運んでいた部品を8日以降、トラック輸送へ切り替えた。

自動車部品大手のアイシン精機(愛知県刈谷市)も、九州の自動車メーカー向けの部品をトラックで運ぶことにした。「自動車メーカーの生産を部品会社が止めるのは論外」(アイシン幹部)という。

大王製紙の三島工場(愛媛県四国中央市)や日本製紙の岩国工場(山口県岩国市)も、鉄道貨物が使えずに頭を抱える。輸送コストの面では、鉄道はトラックや船よりも安く済むだけに「費用はかかるが、何とか東京や大阪に運ばなければ……」(日本製紙担当者)と気をもむ。

製紙最大手の王子ホールディングス(HD)は、生産調整を余儀なくされた。米子工場(鳥取県米子市)は、上質紙や菓子の箱などに使われる紙を1日1300トンつくっていたが、半分以下に減らした。鉄路で全国各地への出荷が滞ると、倉庫が満杯になるおそれがあるためだ。さらに中国地方の別の2工場が水害に遭って再開が見通せず、「業績への影響が出そうだ」(同社広報)。

野菜の出荷も滞り始めた。関西で展開する大手スーパーによると、豪雨被害が出てから、九州産のオクラやコマツナ、長ネギなどの入荷が大幅に減った。関東など他の産地の野菜で代替していて店頭への影響はあまりないが、仕入れ価格は上がり気味だという。担当者は「今後はジャガイモなどの野菜も含めて、品ぞろえや価格に影響が出る可能性がある」。

JR貨物が全国で輸送しているのは、1日あたり約9万トン。だが、豪雨による運休でこのうちの3割が直接的な影響を受けた。とくに山陽線で運んでいた東西の工業製品や農産物、宅配便などへの打撃は大きい。同社関西支社の麦谷泰秀営業部長は「これだけ広範囲で輸送できないのは東日本大震災以来。代行輸送では通常ベースまで輸送力を戻せない」と説明する。12日からトラックや船での代行輸送を始め、山陰線などの迂回(うかい)ルートも検討しているが、すべてをカバーするのは難しい。

物流現場では豪雨後、代替となるトラックの奪い合いが激しい。運輸業界は近年深刻だったトラック運転手の不足を受け、長距離輸送を鉄道や船に切り替える動きがあり、その揺り戻しから混乱が広がった。

西濃運輸は昨年度から片道800キロ超の長距離輸送を順次、鉄道に切り替えてきた。佐川急便も本州から九州への輸送の一部に鉄道を利用する。両社はともに今回、東日本から九州への荷物の受け付けをやめる事態に追い込まれた。

長崎県諫早市の北尾運送は、東京向けの県産野菜や加工食品の一部の輸送について、昨春にトラックから鉄道へ切り替えたばかりだった。豪雨後はトラック輸送に戻したが、運転手の確保に苦労しているという。担当者は「人手もコストもかかってダブルパンチ。早く復旧してほしい」と話す。

■JR西「復旧計画まだこれから」

「被災状況はほぼ把握できたが、再開にどのくらいの期間がかかるかは、まだこれから」。JR西日本の担当者はこう述べ、山陽線も含めた復旧計画の策定を急いでいる。18日に来島達夫社長が記者会見し、路線や区間ごとの大まかな復旧見込みを公表する予定だ。

JR西日本で復旧に1カ月以上と見込まれるのは、広島県を中心に岡山県や山口県などの10路線11区間。大動脈の山陽線は、広島の三原駅と海田市(かいたいち)駅間(延長約65キロ)で土砂流入や盛り土崩壊が相次ぎ、復旧まで数カ月と見られている。

利用者の多い区間では、土砂を取り除いて安全確認ができれば、折り返し設備のある駅との間で順次運行を再開している。比較的早く復旧した山陽新幹線は、広島―福山(広島県福山市)間などで在来線の代行輸送をしている。不通区間の定期券があれば新幹線の自由席に乗ることができる。

鉄道被害は地域の足を奪った。広島県東広島市の県立河内(こうち)高校は153人の生徒の大半がJR山陽線を利用しており、登校できない状況が続いている。鉄橋が流されたJR芸備(げいび)線は、復旧まで1年近くかかると見られている。広島県三次(みよし)市から広島市まで芸備線で通う女子中学生(13)は高速バスに切り替えたが、「往復で約3千円かかるので金銭的にきつい」と話す。

JR四国の被害も深刻だ。愛媛県を中心に、主な豪雨被害は約20カ所にのぼる。同社幹部は「発足30年、これほどの被害は記憶にない。過去最大級ではないか」と話す。

高松市から松山市を経て愛媛県宇和島市までつづくJR予讃(よさん)線は、JR四国の幹線だが、香川県内で鉄橋が傾き、復旧まで数カ月とみられている。宇和島市で22~24日に予定されていた「うわじま牛鬼まつり」は、昨年は延べ20万人を超える人が訪れたが、今年は中止に追い込まれた。

JR四国は1987年の旧国鉄の分割民営化による発足以来、本業の鉄道事業で黒字になったことがない。今年3月期の決算では、昨年9月の台風18号などの豪雨災害の復旧工事費や災害対策費の影響で大幅減益となり、営業損益は99億円の赤字だった。今回の被害について、担当者は「経営面への影響はまだ何とも言えない」と話すが、今後、復旧費用が重くのしかかる。

朝日新聞デジタル

 

一言コメント
今後、台風などこなければよいが…


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