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グーグル成長の立役者「アンドロイド」の功罪


グーグルの米国本社には、アンドロイドの現行版「O(オレオ)」のマスコットがある。OSのバージョンはアルファベットで示され、それぞれにオレオのようなニックネームがある(記者撮影)

世界初のアンドロイドスマートフォンが米国で発売されて、今年9月で10年が経つ。米グーグルが展開する「アンドロイド」はオープンソースのOS(基本ソフト)で、誰でもスマホに搭載可能だ。世界で2万4000超の機種に搭載されており、スマホOSシェアで約85%を握る。

「開発者がアプリを作れば、どのスマホでも使えるような世界にしたいと真剣に考えた。10年をかけて作ったスマホのエコシステムはその成果だ」。アンドロイドの開発担当バイスプレジデントを務めるデイブ・バーク氏はそう強調する。

2005年、グーグルはスマホOS開発ベンチャー「アンドロイド」を買収した。当時は懐疑的な声が多かったが、グーグル自身がスマホOSを必要としていた。「iPhoneもアンドロイドもなかった時代は、それはもう苦労した。検索やGメールといったグーグルのアプリは、ウィンドウズやブラックベリーなど、当時乱立していたOS一つひとつへの対応が求められていた」(バーク氏)。

今や20億人のユーザーを抱える

それが今や世界中で欠かせない存在になった。昨年、月間アクティブユーザーは20億人に達し、アプリストア「グーグルプレイ」のアプリ数は350万を超える。

「この10年でOSとしての完成度は上がった」と語るのは、日本の通信会社として初めてアンドロイドスマホを投入したNTTドコモの谷直樹・プロダクト部プロダクト企画担当課長だ。「初期は”iPhoneと比べてカクカクする”などと言われていたが、パフォーマンス(処理性能)や電池の持ちは工夫されてきたと感じる」(谷氏)。

今年後半から一般提供が始まるアンドロイドの16番目のバージョン「P」(グーグルはアルファベット順で呼ぶ)では、機械学習を用いて電力の消費を抑える機能をAI(人工知能)開発子会社の英ディープマインドと共同開発した。ユーザーの行動パターンを学習し、頻繁に使用するアプリやサービスに優先的に電力を割り振るという。そうした技術の進展が多くのユーザーを引き付けてきたといえる。

アンドロイドの基盤を築いたことで、グーグルは検索エンジンの覇権をPCだけでなくモバイルでも死守。さらにマップやユーチューブ、クロームなど、誰もが手放せないツールを確立し、10億人単位のデータを集めてきた。結果、高精度のターゲティング広告で急成長を遂げた。

グーグルは“アンドロイド人口”を増やすことに貪欲だ。スンダー・ピチャイCEOは数年前に専門チームを立ち上げ、新興国ユーザーの開拓に乗り出した。今年初めには廉価版スマホ向けOS「アンドロイドGO」の提供を開始。通信速度が遅いなど、性能が低くても、快適にスマホを使えるように開発を進めてきた。

アンドロイドの搭載はスマホ以外にも広がる。時計、車、テレビ、そしてIoTデバイスといったものだ。「スマホは万能ではない。さまざまな場面に合ったデバイスが必要だ。アンドロイドであればすでにアプリ開発者が大勢おり、イノベーションも速い」(製品管理担当バイスプレジデントのサミール・サマット氏)。

アンドロイドに吹き付ける逆風

だが、そんな日常生活に入り込むアンドロイドの勢いに「NO」を突き付ける動きが活発になっている。

グーグルは自社製スマホ「ピクセル」を一昨年に投入し、プレミアムな体験を訴求。ますますアンドロイドのシェアを高めようとしている(記者撮影)

早々に目をつけたのが、EU(欧州連合)だ。EUの行政執行機関である欧州委員会は、アンドロイドがEU競争法(独占禁止法)に違反したとして15年から調査を進めている。

グーグルとスマホメーカーの間には「モバイルアプリ流通協定」という契約がある。同社がかかわった過去の裁判資料によれば、グーグルアプリを一つでもメーカー側がプリインストールしたい場合、グーグル検索を初期設定の検索サービスにすること、指定されたすべてのグーグルアプリを入れることなどを条件としていたことがわかっている。欧州委の指摘も同様だ。

グーグル側は、アンドロイドスマホにグーグルアプリを入れなければならない規定はないと主張。確かにメーカー側は必ずしも協定に同意する必要はない。だがグーグルプレイを入れられなければ、提供アプリ数が少ないほかのアプリストアを使うことになる。

一連の契約を分析した米ハーバード大学のベンジャミン・エデルマン准教授は自身の論文で、結果的にメーカーはグーグルと協定を結ばざるをえなくなり、検索やマップなどの競合アプリがグーグルと平等に競争できなくなったと指摘した。

欧州で巨額制裁の可能性

欧州委は7月にもアンドロイドの競争法違反を認定し、制裁決定するとの観測もある。制裁金は年間売上高の10%が上限で、グーグルの場合、最大110億ドル(約1.2兆円)規模となる可能性がある。同社は昨年、買い物検索で競争法違反があったとして、単独企業では過去最高となる24.2億ユーロ(約3100億円)の制裁金が科された。

欧州委員会で競争政策を担当するマルグレーテ・ベステアー委員は、グーグルの調査における強硬な姿勢で知られている(写真:©European Commission)

それだけではない。二人の米国上院議員は、アンドロイドのデータプライバシーに注目。位置情報送信に関して実質的に同意を強制していないか、位置情報の活用方法についての説明が不十分ではないか、などと提起した。議員らは5月初め、米国の独禁法当局である連邦取引委員会に調査を依頼する書簡を送った。

プライバシー問題に詳しい米ノースイースタン大学のクリスト・ウィルソン助教は、「アンドロイドは位置情報に基づく行動履歴やアプリの使用履歴などの個人情報を収集している。設定や収集状況を確認できる場所は設定ページの奥深くにあり、わかりにくい。そうした情報をユーザーへ定期的に通知するような仕組みも必要だ」と指摘。グーグル側は、収集された個人情報を確認・削除できるサイトを用意するなどして、透明性や個人がデータ管理できる環境を確保しているとする。

「消費者は無料サービスを使うために、その対価としてデータを提供していること、データを扱う企業はこのビジネスモデルが信頼なしには成り立たないことを自覚しなければならない」。米調査会社ガートナーのピーター・ソンダーガード上級副社長はそう忠告する。アンドロイドの次の10年で、グーグルは難しい舵取りを迫られそうだ。

 


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