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日本のEV充電インフラは世界トップレベル


世界各国で脱ガソリン車への動きが発表されるなど、電気自動車(以下、EV)に対する熱が高まる中、日本でも4月に日産リーフの累計販売台数10万台突破が発表された。ようやくEVが台頭してきた、というイメージを持つ方も多いと思うが、実は日本では、70年も前にEVが「主役」になっていた時代があった。

石油不足を背景にEVが普及

第二次大戦の終戦直後は、石油不足が深刻だった一方で、工場における大口の軍需がほとんどなくなったため電力は余り気味だった。そのため、戦後の日本で、いち早く普及したのはガソリン自動車ではなく、実はEVだったのだ。

電気事業の課題解決に必要な電力技術の研究・調査・試験などを行っている電力中央研究所の研究員、池谷知彦氏は次のように語る。

「東京電気自動車(後に日産自動車と合併)が1947年に開発した『たま』は最も数が多く、51年までに3500台あまり販売されたと聞いています。EV販売記録としてのこの数字は、2000年代まで破られることがありませんでした」

だが、1950年に朝鮮戦争が起こると状況は一変。石油の輸入が一気に増えることでガソリン自動車が普及し、EVは衰退していく。以降、日本が自動車大国になっていったのは周知のとおりだが、今度は70年代のオイルショックが転機となる。

国家プロジェクトとして、石油を使わないEVの開発・普及が進められるようになったのだ。前述の池谷氏は、鉛電池の頃から二次電池(蓄電池)の普及支援に携わり、90年からこの国家プロジェクトに加わった。

電力中央研究所
研究参事 工学博士
池谷知彦

「自動車メーカーだけでなく、電池メーカーも参加したことで、EVの航続距離や安全性の要となる電池の開発が進みました。最初は鉛電池が主流でしたが、90年代にリチウムイオン電池が開発されると、電池メーカー各社で同電池の研究競争が加速しました」(池谷氏、以下同)

それが携帯電話やパソコンへとつながり、2000年代後半に発売されたリチウムイオン電池搭載のEVのベースとなった。

「2000年代はまだ蓄電池の容量が少なかったため、充電インフラの普及が急務でした。われわれは経済産業省からの依頼で、独自に開発した交通シミュレーターを使い、どこに急速充電スタンドを配置すれば電欠を起こさずにEVが走れるのかという方針を出しました」

それから10年以上経った現在では、急速充電スタンドが全国に7000カ所以上設置され、普通充電と合わせると充電スポットは約3万基だ。ガソリンスタンド数が約3万2000カ所であることを考えれば、安心してEVで走れる環境が整っていると言えるだろう。実際、池谷氏も次のように語る。

「世界的に見ても日本ほど充電インフラの整っている国はありません。国内の充電スポットはまだ増えそうですが、個人的にはもう増やす必要はないと思っているぐらいです。そもそも、蓄電池の性能が向上し、航続距離が伸びていますから、自宅での基礎充電で十分に使えるはずです。急速充電は、緊急時の”保険”の位置づけになるでしょう」

またEVだけでなくハイブリッドカーや燃料電池車、さらに日産ノートのようにガソリンエンジンを発電機として走る電動車もあるなど、電気モーターで走る技術も日本は世界をリードしている。電気モーターで走るクルマの商品化を、これほどの年月や台数、バリエーションで実現している自動車メーカーがいくつもあるのは日本くらいだ。

「さらに電池に関しても、これだけの数の電池メーカーがしのぎを削っている国はほかにはありません。アメリカのEVメーカーですら日本製の電池を採用しているのですから」

つまり、(1)充電インフラの普及、(2)電気モーター技術、(3)電池技術というEVの普及に欠かせない三大要素で、日本は世界のトップを走っているというわけだ。

「今では中国やインドなど、世界中で多くの国々がEVの研究を進めていますが、その実証実験は全部日本に持ってくればいいと胸を張って言えるほど、日本はEVを走らせる環境が世界で最も整っているのです」

このような環境をそろえて、リーフというEVが累計販売数で10万台を突破した。これをどう見るべきか。

「ようやく『自動車を買う時に「ガソリンにする?電気にする?どっちにする?』という“購入対象”にはなったと言える台数だと思います。ただ、まだ『ガソリン車より環境に優しいから』という理由で購入される方が多いのではないでしょうか。50万台を超えれば、それこそクルマの魅力が受け入れられたということでしょう」

池谷氏も日本のEV用の充電インフラには太鼓判を押すが、消費者心理にはまだ届いていないのか

EVの普及には三つの施策が必要

池谷氏は「普及のためには国による強力なリードも必要」だと指摘し、三つのアイデアを提案する。

「一つは、国が自動車メーカーに『全販売台数の20%』など、一定割合をEVなどゼロエミッションとするよう義務づけることです。こうした規制は自動車メーカーを苦境に追い込むと思われがちですが、たとえばかつて世界一厳しいと言われたアメリカ・カリフォルニア州の排気ガス規制をクリアしたことで、日本メーカーの技術力の高さが世界的に認知されることになりました。今や日本車の代名詞でもある”省エネ”は、こうした数々の規制を乗り越えることよって技術が磨かれてきたのです」

自動車メーカーにはこうした”ムチ”が必要な一方、消費者に対しては”アメ”のような施策も同時に必要だと言う。それが二つ目のアイデアだ。

「たとえばノルウェーは天然ガスが豊富で、水力や風力なども加えて電力がたくさんあります。一方で国内に自動車メーカーはありません。そんなノルウェーは輸入車に関税を課しているのですが、EVだけは免税にして導入を促進しています。さらにEVは公共駐車場が無料、充電スタンドも無料で利用できます。また本来バスしか走れないバスレーンもEVだけ通行を許可しています」

それだけEVを優遇するのは、もちろん理由がある。

「理由は簡単、石油を輸入したくないからです。石油の輸入が減ればそれだけ貿易収支が改善されます。最近は中国がさまざまな国策のもとにEVの普及に力を入れていますが、中国も石油の輸入国です。同じく石油を輸入に頼っている日本にとって参考になるのではないでしょうか」

最後の一つは、EVで通勤する社員と、彼らの職場との連携に対する優遇だ。「これは個人的に特に強く希望しています」と池谷氏。

「スマートハウスならぬスマート工場です。たとえば、1000人が働く工場があるとします。1000人がみなEVで通勤し、工場の屋根には太陽光発電パネルが設置されていて、天気の良い日は1000台の充電だけでなく、工場の設備を稼働させることができるとすれば、産業活動自体がゼロエミッションを達成することになります。そうした取り組みに対して税制などで優遇しましょう、ということです」

パリ協定で日本は2030年度のCO2排出量を、2013年度比で26%削減することを約束しているが、その達成のためには「再生可能エネルギーの導入と、EVの普及が不可欠」と、池谷氏は語る。

「再生可能エネルギーは発電量が天候に左右されること、つまり供給の安定化が課題です。そこで再生可能エネルギーで作った電気を蓄電池にため、必要な時に取り出して使えるようにすれば、電力供給の安定化が図れます。その点で、1000台のEVが毎日工場にやって来るということは、毎日1000台の蓄電池を利用できるのと同じこと。工場の屋根に設けた太陽光発電の電力供給の安定化が図りやすくなります」

EVを普及させつつ、化石燃料への依存も減らし、パリ協定の目標達成を後押しするというのが、池谷氏のアイデアだ。国内ではすでにEVが普及する環境も整っているだけに、荒唐無稽な話ではないのかもしれない。


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