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大混雑の「江ノ電」は社会実験で快適になるか 観光客が多すぎ、乗れない地元住民から不満


江ノ電沿線の有名な観光スポットの一つ、鎌倉高校前。アニメの聖地として外国人観光客も多い(筆者撮影)

前例がない社会実験が行われた

ちょっと大げさにいえば世界に例がない社会実験が江ノ島電鉄(江ノ電)鎌倉駅で行われた。今年のゴールデンウィークに鎌倉市の施策として実施されたもので、江ノ電に乗るのに観光客の長蛇の列ができている中、沿線の鎌倉市民は優先的に乗車できるというものである。

「こういう社会実験は聞いたことがなく、計画するにあたり国内海外の鉄道で参考にした事例はありません」(鎌倉市交通政策課)という。

とくに人出の多かった5月4日、江ノ電鎌倉駅では改札内に人が入りきれないため、入場規制が行われていた。改札外には乗車待ちの列ができ、それは駅前広場を半周しさらに左に折れて市役所方向へと伸びている。駅頭ではハンドマイクで駅員が「ご乗車まで40分ほどかかります」とアナウンスをしている。過去には1時間以上の待ち時間となった年もあった。

鎌倉駅改札外の待ち時間表示(筆者撮影)

江ノ電は鎌倉駅と藤沢駅とを結ぶ総延長10kmの短い鉄道だが、沿線には鎌倉の大仏や江ノ島など人気の観光スポットが数多い。途中車窓から海の眺めもいいし、道路上を走る珍しい併用軌道区間もある。全線34分の電車旅は、ファンも多い人気路線である。

利用者が増加し続けていることも江ノ電の特徴のひとつだ。2011年の年間利用者は1529万人だったが、2016年には1887万人と5年間で23%も増加。その一方で、観光客が押し寄せるGWは、沿線住民にとって電車に簡単に乗れなくなってしまう不便な期間となっている。

そこで鎌倉市議員団から、沿線の鎌倉市民が並ばすに乗車できるようにとの要望が出た。それを受けての鎌倉市が行う社会実験である。

江ノ電が社会実験を行う背景には、次の2点がある。

●輸送力増強が困難な江ノ電独自の事情
●多くの有名観光地の中でも鎌倉特有の事情

一方、沿線市民への解決策としては、次の2点が考えられる。

●沿線市民優先の乗車(今回の社会実験)
●ピーク時利用者の減少、ピークの平準化策

江ノ電独自の事情

まず、江ノ電独自の事情から見ていこう。混雑時の輸送力を増やすには、運行本数および連結車両数を増やす。これが抜本的解決策だ。

現在江ノ電は朝6時台から21時台まですべて12分おきの運行となっている。通常の首都圏の路線なら、平日は朝と夕のラッシュ時に本数が多く、日中は少なくなる。江ノ電にはこうした時間帯による本数の増減がない。

それでは、どうやって対応しているかというと、乗客の多い時間帯は4両編成、少ない時間帯は2両編成として運行しているのだ。

江ノ電は全線単線である。上下電車のすれ違いができる場所(交換駅)は途中の4つの駅と1カ所の信号場のみである。12分おきに走る電車は、このすれ違い場所すべてで対向電車をすれ違う。ということは、これ以上電車を増やそうとしても、すれ違い場所がないので増やせない。もし増やすなら、交換駅と交換駅との間(閉塞区間)6カ所に新しく交換駅を設ける必要があり、これは現状不可能に近い。

また連結数を増やした場合、現在5カ所ある交換駅・信号場とも、すれ違い部分の線路を長くしなければならない。これも相当難しい。

鎌倉特有の事情も大きい。鎌倉市への年間入込観光客数は2100万人を超える。京都市の約5500万人と比べれば半分以下だが、奈良市の約1400万人や日光市の1070万人よりはだいぶ多い。

ところが、面積あたりの1日の入込観光客数で見ると鎌倉が突出してくる。

・鎌倉市:1521人/km2
・京都市:184人/km2
・奈良市:140人/km2
・日光市:20人/km2
(第3期鎌倉市観光基本計画、平成28年3月)

鎌倉には、他と比べて狭いエリアにたくさんの観光客が押し寄せているわけである。また鎌倉市は人口約17万2000人なので、交流人口比(人口当たりの年間入込観光客数)は約120倍。京都市の約40倍、パリの約15倍、ベネチアの約80倍よりも上となる。鎌倉では昼間人口における観光客の割合が、世界的にみてもきわめて高いのだ。

鎌倉駅前で市職員が長谷駅まで徒歩用の地図を配る(筆者撮影)

ピーク時の混雑緩和にも、まだまだ策があることも実感した。鎌倉駅頭では、市観光課の職員が鎌倉駅から長谷駅付近までの観光マップを配っていた。長谷駅は大仏様(高徳院)や長谷寺、由比ヶ浜の最寄り駅なので、観光客の乗降が多い。鎌倉駅から長谷駅まで歩いても25分ほど。地図にはそのルートが詳しくかかれている。江ノ電に乗るのに30分以上待つのなら、長谷駅まで歩いてしまった方が早い。観光課職員も地図を配りながら徒歩を勧めている。改札前でも警備員が長谷駅までの道筋を案内している。

長谷駅前も大混雑(筆者撮影)

実際に鎌倉駅から長谷駅まで歩いてみた。想像以上に多くの人が歩く選択をしたようで、所々列をなすようにして歩行者が続く。中間地点付近にあるローソンの前で通行人数を数えてみた。見た目ではほとんどの人が観光客である。

江ノ電は12分おきに走っている。ここで鎌倉駅方向から長谷駅方向へと歩いている人を数えてみたら、4日14時からの12分間で350人だった。江ノ電車両の定員は72人。4両編成の定員は288人だが、実際この時は大混雑400人以上が乗車している。超混雑の江ノ電の乗客とほぼ同じ数の人たちが江ノ電に乗らずに歩いている。鎌倉駅頭での案内の効果は大きいといえる。何年か前のように1時間待ちにならなかったのは、このおかげかもしれない。

混雑緩和の方策は、江ノ電の区間別乗車率にも潜んでいる。始終点駅の鎌倉、藤沢を除いた途中駅で断トツに乗降客が多いのが長谷駅の1万1329人である。長谷駅は鎌倉駅から3つ目。ということは、鎌倉―長谷間の乗車客が最も多いと思われる。これは何度も江ノ電に乗っての実感とも一致する。

徒歩で観光をするプランも悪くない

鎌倉に来たら一度は江ノ電に乗るべきだ。そうお勧めもしたい。

だがゴールデンウィークなどの混雑時は鎌倉―長谷間はあえて徒歩で観光し大仏様を拝観した後、長谷駅から江ノ電に乗って海を間近に見る鎌倉高校前駅付近や道路上を走る腰越付近の車窓を堪能する。こうしたプランもいいと思う。

大仏様からの帰り道、まっすぐ行けば長谷駅、左に曲がれば鎌倉駅といった交差点に、長谷駅での乗車待ち40分などの案内板があれば、かなりの数の人が鎌倉駅まで歩くことを選択するとも思う。上記は一例だが、対策として、的確なポイントで乗車待ち時間案内を行う、鎌倉駅―長谷間の道(由比ヶ浜通り)は洒落た店も点在し、歩くと気持ちがいいことをさらに強くアピールするといったことの効果が大きいと思われる。

今回の社会実験の目的である市民の優先乗車とともに、ピーク時の混雑の緩和策を徹底させることも重要な施策だろう。それは観光客、市民ともに恩恵が大きいことを指摘しておきたい。

 

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