「一蘭」丸パクリのラーメン店がタイで大ブーム…パクリのパクリ店まで出現
- 国際
- 2017年12月10日
日本人から「コピー天国」と揶揄されるように、タイ国内ではあらゆるコピー商品があたかも「違法ではない」かのように街角で売られている。音楽や映画などのCDやDVDを始め、フォトショップやイラストレーターなどのソフト、ブランド物の時計、スマートフォン、アパレル商品、ブランドのバッグと、枚挙にいとまがないほどのコピー商品が氾濫。“巨大コピー市場”が形成されているといって過言ではないだろう。
「タイのコピー天国」がどれほどの程度なのか示す数字を紹介しよう。
アメリカ合衆国通商代表部(USTR)はタイに対し、知的財産権の保護が不十分な「優先監視国」に11年連続で指定。さらに、アメリカ商工会議所が45ヶ国の地域の知的財産権の状況を調べた「国際知的財産権指数」の2017年版を見ると、こちらも40位とことさら低評価だった。
アメリカがお墨付きと認めるコピー天国のタイ。世界屈指ともいえるコピー大国から今回お届けするのは、日本の有名ラーメン店のシステムをまるっきり模倣したラーメン店のお話である。
◆バンコクに『一蘭』を彷彿とさせるラーメン店があった…
1993年、福岡市南区に一号店を出店したとんこつ専門ラーメン店『一蘭』。この店の代名詞ともいえるシステム「味集中カウンター」をご存知の方は多いだろう。カウンター席に仕切板を設け、隣席と隔絶することによってラーメンに集中できることから名付けられたカウンター席だ。隣を気にすることなく食事ができるこのシステムは人気となり、『一蘭』は日本国内で71店舗を展開。日本だけにとどまらず海外進出も果たし、アメリカや香港、台湾にも出店した(※2017年12月執筆時点)
海外へ目を向けているのであれば、ラーメン店激戦都市のバンコクも視野に入れているはず。そろそろ進出するのだろうかと思いきや、バンコクにはすでに「味集中カウンター」を採用したラーメン屋があるという情報を掴んだ。
その店とは、先に述べた模倣ラーメン店の『Aラーメン』である。
『Aラーメン』の本店があるラムカムヘン・ソイ49という場所は、バンコク中心部から10km以上離れており、バスなどを使ってもアクセスは容易ではなく、日本人が訪れることはほとんどないエリアである。
13時ごろ来店してみると10名ほどのタイ人客が椅子に座り順番を待っている状況だ。昼時とはいえ行列のできるラーメン店はバンコクでも珍しいのに、至便とはとても言い難いラムカムヘン・ソイ49のラーメン店に行列が出来ている。店が所有する駐車場はほぼ満車。
停めている車の中にはベンツといった高級車も数台見受けられ、『Aラーメン』がタイ人の間で話題になっていることがうかがえる。20分ほど待ったところで店員がカウンター席へと誘導してくれた。そこに広がっていたのは、私が日本で見た『一蘭』そのもののカウンター席である。カウンター席の作りや仕切板、雰囲気など、見事なまでに『一蘭』そのものを作り上げたといっていい。
カウンター席に着くとまずオーダー用紙への記入である。記入するのは麺の固さやスープの濃度、辛さ、トッピングの種類など、これも『一蘭』とまったく同じだ。記入が終われば呼び鈴で店員を呼び用紙を渡せば注文完了。どこまでも『一蘭』を想起させるシステムを導入している。
『Aラーメン』がコピーしているのはカウンター席や注文方法だけではなかった。提供されたラーメンには『一蘭』と同じような赤いタレがトッピングされ、麺といいスープといい本家をがんばって模倣している様子がうかがえる。そのラーメンが150バーツ(約510円)なのだから日本人の金銭感覚からすればコスパは決して悪くはない。タイ人経営のラーメン店が、150バーツでこのラーメンを提供できているなら十分だろう。
◆タイ人客は『一蘭』のパクりであることを知っている?
店員に聞くと『Aラーメン』がオープンしたのは2年ほど前と言う。それから3店舗を増やし現在では計4店舗を展開している。たった2年で繁盛店にまで上り詰めたのは、オリジナリティなんて最初から捨て、『一蘭』のシステムや味を愚直に真似たおかげに違いない。では彼らはどれほど『一蘭』を真似ているのか。『一蘭』は自身のWebサイト内で「五つの元祖」として以下5つの項目を挙げている。
1.赤い秘伝のタレ
2.臭みのないとんこつスープ
3.味集中カウンター
4.オーダー用紙
5.替玉注文システム
『Aラーメン』は『一蘭』が元祖として掲げるこの5つすべてをお手本にし、極めて似通った店舗を作り上げた。何も臆することなく言ってしまえば「パクっている」という言葉が至極的確だろう。5つのうち3を除く要素は他店でも導入していることなので、『Aラーメン』だけがパクっているとまで言うことはできないが、問題となるパクり要素こそ「味集中カウンター」に他ならない。『一蘭』はこのシステムで特許を取得(特許番号 4267981号)しており、他店で同じシステムを導入すると特許侵害に抵触する可能性が極めて高くなる。
ところがこの特許は日本国内の特許法に基づいているため、海外ではそれぞれの国での特許申請が必要になる。ということはタイの『Aラーメン』が「味集中カウンター」をタイ国内で丸パクりしても、タイの法律には一切抵触しないし、日本の法的拘束力が及ぶことももちろんない。つまり、「味集中カウンターを先にやった『Aラーメン』の早い者勝ち」だったというわけだ。
『一蘭』がタイの特許を取得していないのであれば、すでに『Aラーメン』がタイ国内で味集中カウンターの特許を出願、もしくは取得しているのかもしれない。もしこの憶測が事実だとしたら、『一蘭』がタイに進出しても味集中カウンターを持ち込むことは不可能に近いだろう。
徹底的に日本の有名ラーメン店をパクった『Aラーメン』。ではこの店に来店するタイ人客はどのような反応なのだろうか。タイ最大手の掲示板サイト「Pantip(パンティップ)」に掲載されているコメントの一部を抜粋してみた。
「これって日本の有名なラーメン店『一蘭』のシステムでしょ?」
「日本でホンモノの『一蘭』を食べてみたい」
「『一蘭』との違いはどういったところなんでしょうか?」
どうやら多くのタイ人に『一蘭』のパクりであることは知られているようで、日本の有名店をパクっていることが話題の一端になったようだ。『一蘭』のシステムが海を渡りパクり店が出現したのだが、もう一つ驚いたのは『Aラーメン』のヒットを見て、さらにパクったラーメン店まで出てきたことである。
◆『Aラーメン』をパクった『ラーメンA』
『Aラーメン』本店の斜め向かいに赤い暖簾を掲げた屋台を発見した。暖簾には「ラーメン」と日本語が書かれている。人気ラーメン店の近くでラーメン屋台を出すとは“喧嘩上等”というわけなのか。『Aラーメン』取材後、この店にも立ち寄ってみた。
暖簾をくぐり、上部に掲げられていた店名を見て驚愕した。アルファベットで書かれているのは『RAMENG A』! タイ語での店名をそのまま読むと「らーめん あ」となる。
『ラーメンA』は『Aラーメン』の店名だけではなくとんこつラーメンであることも真似ているのだが、さすがに屋台で「味集中カウンター」までパクることはできず、店名以外はなんてことのないふつうの屋台である。
私はここでもとんこつラーメンをいただいた。ラーメンのレベルは『Aラーメン』に完敗だが、価格は約半分の80バーツ(約272円)。安さで『Aラーメン』に対抗しつつ、『Aラーメン』が満席で入店を諦めた客を狙う「おこぼれ作戦」を実践しているようである。
店員に訊くと『ラーメンA』がオープンしたのは3か月ほど前。この店に来店したことがあるというバンコク在住の日本人女性からの情報提供によると「夕食時間に来店したらほぼ満席だった」と話してくれた。
名店『一蘭』をコピーした『Aラーメン』。そしてその店を中途半端にコピーした『ラーメンA』。どちらも繁盛しているという現象は、最先端をひた走るコピー先進国の敏腕ぶりであり、他の追随を許さず世界屈指の存在にまで上り詰めたといっていいだろう。
タイへの進出を狙っている日本食店の方々、日本国内で取得している特許があれば、タイ国内での特許申請を先にしておく方がいいかもしれない。<取材・文/西尾康晴>
一言コメント
一蘭はどう思っているのだろう。
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