鳥貴族社長に聞く、298円への値上げに踏み切った舞台裏
- 企業・経済
- 2017年11月10日
10月に均一価格を280円から298円に値上げした鳥貴族。コスパの評価が高いだけに、業界にも一般利用者にも衝撃が走った。値上げ決断の舞台裏では何があったのか。『週刊ダイヤモンド』11月11日号の第1特集「味から儲けの仕組みまで 外食チェーン全格付け」の拡大版として、本誌と別テーマあるいは未掲載箇所をたっぷり盛り込んだ経営者たちのインタビューをお届けする。第8回は、鳥貴族大倉忠司社長に聞く。(『週刊ダイヤモンド』編集部 山本 輝)
――10月に均一価格を280円から298円に値上げしました。何があったのでしょうか。
酒税法改正によるビールなどの仕入価格の高騰だけでなく、人件費や求人費がどんどん上がっています。労働環境を少しでも年々良くしたいという基本方針もあるなか、総合的に考えて判断しました。
今後、消費増税も見込まれるでしょう。増税後は消費者心理を考えると価格を上げにくい。それもあって、今しかないと決断しました。
――値上げはいつから検討されていましたか。
正直言うとですね、アベノミクスが出始めた頃から意識はしていました。結構早い段階です。
政策として物価を上げていくというのですから、流れは変わると思いました。後に東京オリンピックの開催も決まり、地価も家賃もじわじわ上がって、これはもう、上げざるを得ないタイミングが来ると考えていました。
――実際、値上げを決めた時の社内の雰囲気はどうでしたか。
みんなびっくりしていましたね。「そんな方法あったんだ」と(笑)。
それまでも、「280円均一を守ろうプロジェクト」として、現場での細かい積み重ねの努力をしてきた。例えば、メニューの「キャベツ盛り」はおかわり自由なのですが、その都度、スタッフの手が取られてしまいます。そこで器を大きくすることで、その回数を極力減らしました。
みんな、280円を守るべきものだと考えてくれていたんです。そのために頑張ってくれた。だから、値上げせざるを得なくなったのは、自分たちの責任だと社員は思っていたんです。
でも、そうじゃないんだよと。実は私自身は、均一価格にはこだわるけど、280円という価格にはそれほどこだわっていなかったんだよと。インフレの時代、値上げのタイミングは必ずやってきますから。
――外食各社の値上げが相次いでいます。ただ、消費者が価格変化に敏感な外食では、値上げにはリスクもある。値上げが成功する企業とそうでない企業の差はなんでしょう。
当社の値上げが受け入れられたかについては、まだ未知数ですが……。
思うに、「共感」が重要なんでしょうね。例えばヤマト運輸は、お客さまのために利便性をどんどん高めていきましたが、半面、スタッフの負担が増えていきました。
そうした構造が世間にも理解され、現場の負担を改善するため値上げをお願いしますというのに、共鳴してもらえたんでしょうね。
外食も、残念ながらブラックのイメージが強い。お客さまへのサービスの質を高めて、そのしわ寄せがスタッフへいくようでは企業は長続きしません。この状況をお客さまにも納得してもらうことが必要です。
あとは、お客さまに不信感を持たれないこと。価格を下げたと思ったらすぐ上げるなどを繰り返していると、適正価格が分からなくなります。そうすると、お客さまは離れやすくなりますよね。
――値上げしたとはいえ、居酒屋業態の中で顧客のコスパ満足が抜群。この強み、まだまだ磨けますか。
やはり焼き鳥専門でやっているのが強みでしょう。品質の高い鶏肉を、スケールメリットを生かして調達できますから。すでに店舗数は500店を超え、目標だった1000店が見えつつあります。
効率化も進めています。いま、注文用のタッチパネルを順次導入しているところです。省人化につながり、スタッフに余裕ができることで、より良いサービスを提供できます。
その他にも、まだ計画にすぎませんが、食器だけでなくジョッキの自動洗浄機の導入を検討するなど、オペレーションの改善を重ねています。
ただ、何でも効率化してコストを削ればいいということではない。
――あえて効率化しない部分もあるのですか。
鳥貴族は全て国産の鶏肉を使っており、串打ちはセントラルキッチンを使わず店内で行う。だから新鮮でおいしいんです。専門でやっているからには、味で他社に負けるわけにはいきません。
チェーン店ならではの良さと、非効率的な要素のバランスを大切にしています。
あとは、見えない努力ですかね。本社事務所は質素なビルですし、私自身、送迎車などはなく、毎日自分の車で通勤するなど、節約を心がけています(笑)。
――鳥貴族のような専門性の高い居酒屋が台頭する一方、総合居酒屋が落ち込んでいます。
流通業なんかでもそうでしょう。かつていろんな品ぞろえがあって利便性の高い総合スーパーマーケット全盛の時代があった。でも、アパレルにしろ家具にしろ専門店化が進んでいる。
居酒屋も同じで、総合居酒屋ではいろんなものを食べられるけど、本当に食べたいものはない。そこに専門店のニーズがあるわけです。
――ただ、単一業態では、飽きられてしまうなどのリスクもあります。
それこそ流通業と一緒ですよ。アパレルのなかで、カジュアルだけで本当にいけますかと。実際はいけたわけです。
大切なのは思い。例えば日本マクドナルド創業者の藤田田さん。あれだけすごい人でも、マクドナルド以外はほとんど失敗していますよね。なぜかと言えば、マクドナルドほどには情熱をかけられないから。
業態を2つ、3つと増やしても、全てに同じ情熱をかけられないと、うまくいきません。だから、私たちは、鳥貴族という1つの業態に全力を尽くすのです。
一言コメント
納得のいく理由と値上げ幅だ。
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